
在庫を持って商いをする企業にとって「在庫ロス」は避けて通れない課題です。廃棄や値下げによる損失だけでなく、欠品による販売機会の喪失や棚卸の誤差も、利益をじわじわと削ります。数値化しにくい損失も含まれるため、気付かないうちに経営を圧迫しているケースも少なくありません。本記事では在庫ロスの基本から種類、計算方法、企業への影響、さらに実践的な対策や役立つシステムまでを整理します。自社の状況を見直し、ムダを減らしながら利益を守る一歩を踏み出してください。
まずはこの1ページで解決!「在庫管理システム」の主な機能、メリット/デメリット、選定ポイントを徹底解説
目次
在庫ロスの定義と現場で起こる背景
在庫ロスは、小売・飲食・製造など在庫を扱う現場で避けにくい課題です。内容を正しく理解すると、利益改善に向けた具体的な一歩を踏み出せます。ここでは定義と発生の背景を整理し、次の対策につなげます。
在庫ロスとは何か
在庫ロスとは、在庫を起点に発生する経済的損失のことです。売れ残りの廃棄や値下げで生じる金銭的な損失、欠品で売上の機会を逃す機会ロス、帳簿と実在庫の差から生じる棚卸ロスなど、形はさまざまです。会計上は「棚卸減耗損」として処理される場合もありますが、実態は現場全体に広がる幅広い損失です。
在庫管理の基礎整理には「在庫管理とは? 目的と考え方、効率化する手法、デジタル時代の在庫管理」をご覧ください。
なぜ在庫ロスが発生するのか
主因は需要と供給のミスマッチです。具体的には、需要予測の誤り、発注や仕入れのミス、不適切な在庫管理が挙げられます。賞味期限や消費期限のある商品はロスが顕在化しやすく、担当者の経験や勘に依存した属人的な運用は、担当交代時に精度が落ちる要因になります。
機会ロスを恐れて過剰発注すれば廃棄や値下げが増え、反省して絞れば欠品が起きるという悪循環も生まれやすくなります。
需要と供給のミスマッチ対策には「適正在庫とは? 定義から計算方法、最適化の手順まで」をご覧ください。
おすすめ適正在庫とは? 定義から計算方法、最適化の手順までわかりやすく解説
在庫ロスの主な種類
在庫ロスは性質ごとに整理すると原因と対策が見えやすくなります。現場でどれが多いかを把握し、重点的に改善しましょう。
廃棄ロスとは
販売されないまま廃棄されることで発生する損失です。期限切れや品質劣化、破損や汚損、陳腐化などが要因です。
仕入原価だけでなく、保管や管理にかかった費用、処分費用まで無駄になります。食品分野では社会的な「食品ロス」とも重なり、削減が求められます。
賞味・消費期限やトレーサビリティには「ロット管理とは? 現場で役立つ情報とシステムを導入する」をご覧ください。
値下げロスとは
当初の販売価格より低い価格で販売した差額分が損失になるものです。期限間近や季節の変わり目、流行の変化、競合の価格戦略への対応で発生します。
廃棄を避ける合理的な判断になる場合もありますが、利益率の低下や「待てば安くなる」という学習効果、ブランドイメージの低下を招くおそれがあります。
機会ロスとは
欠品や補充ミスで本来売れたはずの商品が販売できず失われる損失です。帳簿には現れにくい損失ですが、顧客満足の低下や離反につながります。欠品状態の販売実績に基づく発注は真の需要を反映しないため、欠品の再発を招く悪循環を生みます。
棚卸ロスとは
帳簿在庫と実地在庫が一致しないことで発生する損失です。入荷検品や返品処理の誤り、棚卸時の数え間違い、データ入力ミス、破損の申告漏れなどの人為的ミスに加え、万引きや内部持ち出しといった不正も要因です。在庫データの信頼性が損なわれると、発注や生産計画が崩れ、欠品や過剰在庫を誘発します。
在庫ロス率の計算方法と現場での使い方
現状を数値で把握し、改善の筋道を立てるには在庫ロス率の活用が有効です。定期的に算出して共有すると、目標管理がしやすくなります。
在庫ロス率の計算式
在庫ロス率 =(ロス金額 ÷ 売上高)×100
ここでのロス金額は、主に廃棄ロスと値下げロスの合計です。廃棄した商品の販売価格相当額と、値下げ差額の合計を使います。数値化することで、感覚ではなく根拠ある議論ができます。
在庫ロス率の計算例
単価3000円の商品を100個仕入れ、80個は定価、10個を2000円で販売、残り10個を廃棄したケースを例にします。
| 項目 | 単価/金額 | 数量 | 合計金額 | 計算詳細 |
| 初期条件 | 商品Aの販売価格 3000円 | 100個 | — | — |
| 定価販売 | 3000円 | 80個 | 24万円 | 3000×80 |
| 値下げ販売 | 2000円 | 10個 | 2万円 | 2000×10 |
| 売上高 合計 | — | — | 26万円 | 240000+20000 |
| 廃棄ロス | 3000円 | 10個 | 3万円 | 3000×10(販売価格ベース) |
| 値下げロス | 1000円 | 10個 | 1万円 | (3000−2000)×10 |
| ロス金額 合計 | — | — | 4万円 | 30000+10000 |
| 在庫ロス率 | — | — | 15.4% | 40000÷260000×100 |
このように算出していくとどの項目のロスが大きいかを明確にできます。
数値から施策に落とすには「在庫分析の具体的手法と在庫分析に役立つツール(ABC分析・交差比率など)」をご覧ください。
併せてチェック!在庫分析の具体的手法|「ABC分析」「在庫回転率分析」「Zチャート」「流動数曲線」の使い方
業種ごとの目安と活用法
小売や飲食では在庫ロス率の目安を1〜3%程度に置くケースが多いです。劣化しにくい工業製品ならばもう少し低い水準でもよいでしょう。重要なのは他社比較より自社の推移管理です。
- 現状把握:ロスの内訳(廃棄・値下げなど)を分解して重点領域を特定
- KPI化:月次や四半期でロス率を追跡し、改善を定点観測
- 目標設定:例として「今期の2.5%を次期に2.0%へ下げる」など、測定可能な具体的目標を設定
- 全社共有:仕入・販売・倉庫で共有し、在庫ロスを部門横断の課題とする
在庫ロスが企業にもたらす影響
在庫ロスは利益を直接下げるだけではありません。財務・現場・ブランドの広い範囲に影響します。特に大きな影響は以下の通りです。
- 利益率が低下する
- 管理コスト・作業負担が増える
利益率が低下する
廃棄や値下げは粗利益を削ります。保管スペースの費用、人件費、光熱費、廃棄の処分費も積み上がります。過剰在庫は現金を滞留させ、成長投資に回す資金を圧迫します。
管理コスト・作業負担が増える
在庫が多いほど、入出庫や棚卸といった付帯作業が増えます。保管場所が逼迫すると作業効率も落低下します。急な棚卸や廃棄対応、欠品クレームが発生すれば、現場の負担増加にもつながります。また、頻繁な値下げはブランド価値を損ない、棚卸ロスの常態化は信頼低下にも影響しかねません。
在庫ロスを減らすためにできること
在庫ロスを減らすには、大掛かりな投資だけが解ではありません。日々の業務で実行できる対策を積み重ねると、着実に改善できます。
- 需要予測の精度を上げる
- 在庫管理システムやツールの活用
- 先入れ先出し(FIFO)の徹底
- スタッフ教育と現場の意識改革
需要予測の精度を上げる
需要予測は、過去の販売実績、季節や曜日の傾向、キャンペーン効果などの内部データに、天候や地域イベントなどの外部要因を組み合わせて分析するのが一般的です。担当者の勘やコツ、経験のような曖昧な要素だけではなく、「データ」で判断する体制へ着実に移行します。AIを活用した需要予測ツールも有効です。
在庫管理システムやツールの活用
在庫データの正確性が予測の前提です。WMSなどのシステムと、バーコード・QRコード・RFID(電波を利用してタグ情報を読み書きする技術)
の活用で入出庫や棚卸を自動化し、人的ミスを減らします。発注点管理で、発注漏れによる欠品も防げます。
先入れ先出し(FIFO)の徹底
「先に入ったものから先に出す=FIFO:First In, First Out」を現場に根付かせましょう。
- ルールを明文化し、誰が作業しても同じ手順に
- 入荷日や期限のラベル、色分けシールで視覚管理を行う
- ロケーション管理やスルーラックで、自然とFIFOになる動線を作る
- 3S(整理・整頓・清掃)を徹底し、探す時間を無くす
期限・ロットと合わせて徹底するなら「ロット管理とは? 現場で役立つ情報とシステムを導入する」をご覧ください。
スタッフ教育と現場の意識改革
在庫ロスの影響と顧客視点を学ぶ研修を実施します。システム操作やFIFOの手順を実践的に訓練します。KPIを共有し、改善を評価する文化を作ると、現場の自律的な改善が進みます。
在庫ロス削減に寄与するおすすめ在庫管理強化するシステム10選【業種・職種別】
廃棄ロス・機会ロス・棚卸ロスの削減に直結する機能と、現場での使いやすさを軸に選びました。導入検討の入り口にしてください。(製品名 abcあいうえお順/2025年9月時点)
【小売店舗責任者・店長向け】消費期限管理と販売予測で廃棄ロス削減
Aladdin Office
販売・在庫管理の定番システムです。先入れ先出し管理や消費期限アラートで期限切れを抑えます。ハンディターミナル連携で棚卸の精度と速度を両立し、人的エラーを減らします。ユーザーの継続利用率も高水準です。





















