
プログラミングの専門知識がなくてもシステムやアプリの構築を進められる──。いま、国内外の多くの企業で急速に導入が進み、業務効率化やコスト削減、DX推進などさまざまな目的で活用されはじめている注目の業務改革手段、それが「ローコード開発ツール」です。
本記事では、ローコード開発ツールの市場が拡大している背景や注目される理由、導入時のメリットとデメリット、今後の展望についてわかりやすく解説します。
この1ページで解決!ノーコード開発・ローコード開発ツールの選び方完全ガイド
目次
ローコード/ノーコード開発市場は拡大が続く
近年、ローコード開発は国内外で急速に普及しています。ローコード開発とは、従来のように高度なプログラミングスキルがなくても、業務担当者や非エンジニアが直感的な操作で業務システムやアプリを構築できる開発手法のことです。ドラッグ&ドロップなどのビジュアル操作を中心に、必要に応じて一部コードを加えられる柔軟性もあるのが特徴で、短期間かつ低コストでシステムを開発できることから、近年多くの企業で注目されています。
調査会社アイ・ティ・アールが2025年2月に発表した調査資料によると、ローコード/ノーコード開発の日本市場は2023年度に前年度比14.5%成長の812億円、2023~2028年度のCAGR(年平均成長率)は12.8%、2028年度には2023年度比で1.8倍に拡大すると予測されています。
また、米GartnerやPrecedence Research、Grand View Researchといった世界的な調査会社もグローバル規模での急拡大を示しています。これは一時的なブームではなく、DXや業務効率化などの根本的なニーズを背景とした大きな流れと言えるでしょう。MicrosoftやSalesforce、Amazonといった大手IT企業も「Power Platform」や「Einstein 1 Platform」などを相次いで投入し、クラウドやAIと組み合わせたエコシステムを構築しています。
さらに、中小企業や自治体、医療、サービス業、製造業など、規模や業種を問わず導入事例が増えており、公共分野での活用も加速しています。

ローコード開発プラットフォームの市場規模および2030年までの成長予測(出典:Grand View Research)
ローコード開発は、もはや一部の先進企業だけのものではなく、多くの組織で重要なIT手段として活用され始めています。今後のDX推進や業務改革において、欠かせない選択肢のひとつになるでしょう。
ローコード開発が企業へ急速に広がっている3つの理由
ローコード開発は、なぜここまで多くの企業で導入が進んでいるのでしょうか。背景には、IT人材不足の深刻化、ビジネス環境の変化への即応、そしてDX推進という3つの大きな理由があります。それぞれのポイントを見ていきましょう。
- IT人材不足と内製化ニーズ
- ビジネス環境の変化にすばやく対応できる
- DX推進の加速と「2025年の崖」問題
1. IT人材不足と内製化ニーズ
2030年、日本のIT人材は約79万人も不足すると予測されています。エンジニアの採用が難しいなか、企業は自社でシステム開発を進めたいニーズも高まっています。
ローコード開発ならば、現場の担当者やIT部門以外のスタッフでも必要なシステムやツールを自ら開発できるようになります。
ローコード開発の登場によって、業務をよく知る現場主導でアプリが作れるため、課題解決が早くなります。また、外部委託に頼らず社内リソースを活用でき、開発コストや運用負担も分散できます。
属人化のリスクも下がり、担当者が交代してもシステムの知識やノウハウが残りやすくなるため、持続的な運用体制づくりにも役立ちます。
2. ビジネス環境の変化にすばやく対応できる
現代のビジネスは「変化の激しい時代」に突入しています。新しいサービスの企画や顧客ニーズの変化、競合他社の動きにスピード感を持って対応することが求められます。
ローコード開発は、画面上での直感的な操作やドラッグ&ドロップによって、業務フローや要件の変更にすぐ対応できます。
例えば、急な制度変更や新規事業への取り組みにも、短期間でシステムを構築したり、業務改善用のアプリをテスト導入することが可能です。
また、コロナ禍の緊急給付金システムなど、自治体や団体が短期間で仕組みを立ち上げる際にも大いに役立っています。
このように、変化に強い柔軟な開発体制を求める企業にとって、ローコード開発は有力な選択肢となっています。
ノーコードでアプリを実際に作るステップは、「ノーコードでアプリを作成する簡単な方法|効率的な開発方法」で詳しく解説しています。
3. DX推進の加速と「2025年の崖」問題
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する流れのなかで、経済産業省が「2025年の崖」という警鐘を鳴らしています。これは、老朽化したシステム(レガシーシステム)が足かせとなり、2025年以降に大きな経済損失が生じるリスクを指摘したものです。
こうした背景から、企業では既存のブラックボックス化したシステムの刷新や、柔軟な業務改善の仕組みづくりが急務になっています。
ローコード開発なら、部分的に新しいシステムを追加したり、既存のシステムとAPI連携したりしながら、段階的に現代化を進めることができます。
これにより、大規模なリプレイスやコストの負担を抑えつつ、現場主導でDXを実現できるため、多くの企業が導入を進めています。
2025年の崖については、「「2025年の崖」とは? データドリブンとは?」で解説しています。
関連「2025年の崖」とは何か|概念と仕組み、“何をやればいいのか”をじっくり解説
ローコード開発がもたらす5つのメリット
ローコード開発には、企業が抱えるさまざまな課題を解決する具体的なメリットがあります。ここでは、実際の導入事例とともに、5つの主要な効果を紹介します。
- 開発期間を短縮できる
- コストを抑えて導入できる
- ビジネスユーザー主体で開発を進められる
- 保守・運用・アップデートが容易
- セキュリティや品質も一定水準を保てる
開発期間を短縮できる
ローコード開発は、あらかじめ用意されたテンプレートや機能部品(コンポーネント)を組み合わせるだけでアプリケーションを構築できるため、ゼロからコードを書く必要がありません。その結果、開発期間が大幅に短縮されます。
例えば、建設業のある企業では従来2年かかっていた基幹システムを、ローコード開発を活用してわずか10ヶ月でリリースした実績があります。これは約60%の期間短縮となります。
また、金融機関でも外国為替予約システムの刷新プロジェクトにおいて、3ヶ月の期間短縮と30~40%の工数削減を実現しています。
このように、急な業務プロセスの見直しや新サービスの立ち上げにも、柔軟かつ素早く対応できます。
コストを抑えて導入できる
外部の専門エンジニアや開発会社に依頼せずに済むことで、人件費や外注費の削減につながります。また、少人数でのプロジェクト立ち上げや、小規模な試験導入からスタートしやすいのも特徴です。
例えば、自動車部品メーカー大手のジヤトコでは、ローコードツールで社内ワークフローを内製化し、年間2,000万円ものコスト削減につなげています。
また、運用コストも抑えられ、紙の帳票や手作業の削減による全体的な効率化も実現できます。
ビジネスユーザー主体で開発を進められる
ローコード開発では、現場の担当者やビジネス部門のスタッフが、自分たちの業務課題を解決するためのアプリを直接開発できるようになります。
株式会社LIXILでは、IT部門以外の社員が作成したアプリが1年で2万件を超え、その多くが正式な業務ツールとして社内で使われています。
このように、現場主導の「市民開発」により、業務改善のアイデアがすぐ形になり、社内コミュニケーションの効率化や認識のズレの解消にもつながります。
ビジネスユーザーが自らアプリ開発に挑戦する事例は、「はじめてのノーコードアプリ開発ガイド|中小企業・スタートアップの業務改革に役立つ基本と実例」をご覧ください。
保守・運用・アップデートが容易
ローコード開発プラットフォームでは、アプリやシステムの修正・更新を視覚的に行えるため、運用後のメンテナンスがスムーズです。
新しい機能の追加や法改正への対応も簡単で、クラウド型ツールを利用すれば、セキュリティ更新や機能アップデートも自動で実施される場合が多いです。
また、プラットフォームの標準機能により、属人化を防ぎ、担当者が変わっても引き継ぎがしやすいというメリットもあります。
セキュリティや品質も一定水準を保てる
「誰でも簡単に作れる」と聞くと品質やセキュリティに不安を感じる方もいるかもしれませんが、エンタープライズ向けのローコードプラットフォームでは、ID認証や権限管理、データ暗号化などのセキュリティ機能が標準搭載されています。
また、標準化された部品を使うことで、手作業によるミスやバグも減りやすくなります。テストや保守の自動化も進んでおり、IT部門以外が開発した場合でも、一定水準の品質や安全性が保たれる仕組みになっています。
メリット別のツール比較や導入失敗回避のポイントは、「ノーコード・ローコード開発ツール16選|非エンジニアでも安心、機能・料金・導入失敗回避の比較ガイド」をご活用ください。
この1ページで解決!ノーコード開発・ローコード開発ツールの選び方完全ガイド
ローコード開発のデメリットと導入時の注意点
ローコード開発には多くのメリットがありますが、全てのシステム開発に万能なわけではありません。ここでは導入時に気をつけるべきポイントや、課題への対応策を紹介します。
- カスタマイズ性・拡張性に限界がある
- 開発規模・シーンによって不向きな場合もある
- プラットフォーム依存とベンダーロックイン
カスタマイズ性・拡張性に限界がある
ローコード開発では、用意された標準機能の範囲内でのシステム構築が中心となるため、非常に複雑な要件や独自の業務ロジックには対応しきれない場合があります。
例えば、細かなカスタマイズや追加開発が必要な場合は、従来型の開発手法やスクラッチ開発と組み合わせる「ハイブリッド開発」を検討しましょう。
導入前には、実現したい機能や要件がローコードツールで対応可能か、無料トライアルやPoC(概念実証)などで十分に検証することをおすすめします。
大規模・高負荷なシステムには不向きな場合もある
大量のデータを高速で処理したり、厳しいレスポンスが求められるような基幹システムや特殊な業務の場合、ローコード開発では制約が生じることがあります。
この場合は、全体をローコードで置き換えるのではなく、モバイルアプリなど周辺システムから部分的に導入したり、基幹システムとAPIで連携させるなど、段階的な活用を検討するとよいでしょう。
プラットフォーム依存と「ベンダーロックイン」
特定のベンダーのプラットフォームに依存しすぎると、サービス終了や仕様変更が将来的なリスクになります。
導入前に、データの移行やバックアップの仕組みが用意されているか、オープンな技術(APIやデータフォーマットなど)に対応しているかを必ず確認してください。
契約条件やサポート体制も事前に調べ、万が一の時にも柔軟に対応できるよう備えましょう。
エンジニアにも新しい役割が求められる
ローコード開発が普及すると、エンジニアには単なるプログラム作成だけでなく、設計や要件整理、データ連携の設計、ツールの選定、ガバナンスの整備など、幅広い役割が求められるようになります。
また、AI活用やプロンプト設計など、従来とは異なるスキルや経験も重要になってきます。
エンジニア自身のキャリアアップやスキルチェンジのチャンスと捉えて、積極的に新しい知識を学ぶ姿勢が大切です。
将来性の鍵は「AI連携」と現場主導の開発文化
ローコード開発の将来を語る上で、「AIとの連携」と「現場主導の開発文化」が大きなポイントとなっています。
生成AIとの連携で「誰もが開発できる」時代へ
生成AIの進化により、今や日常的な日本語で要件を入力するだけで、AIがアプリの骨組みを自動作成する時代が近づいています。
現場の担当者や各部門のスタッフが、直接ツールを使って業務改善に取り組める環境が整いつつあります。
これにより、ITに詳しくない方でもシステム作成に参加しやすくなり、企業全体のイノベーション促進に貢献します。
プロフェッショナル開発者の役割も変化
AIやローコードの普及によって、プロのエンジニアの役割も変わりつつあります。
これからは、ツールやサービスの選定、セキュリティ設計、データ連携、ガバナンスなど、より上流の工程に力を発揮することが求められます。
また、現場の開発者をサポートし、安全かつ効果的なシステム構築を指導する立場も重要です。
新しい技術や働き方に適応できるエンジニアは、企業の変革や成長の中心となっていくでしょう。
ローコード開発を活用して、企業のデジタル競争力を高めよう
ローコード開発は、単なる技術導入にとどまらず、企業のIT戦略や業務改革を進めるための重要な手段です。人材不足やコスト削減、業務改善などの課題を解決し、ビジネス環境の変化にも柔軟に対応できる体制を構築できます。
導入の際は、ツールの拡張性や運用サポート、将来の変化への柔軟さなどを慎重に比較し、自社の課題に最適なものを選ぶことが大切です。また、社員への教育やスキルアップ支援も効果的な活用のポイントです。
今後は、実際の導入事例や他社の成功例も参考にしながら、段階的にローコード開発の活用を広げてみてはいかがでしょうか。企業の競争力強化に向け、まずは情報収集や専門家への相談から始めることを提案します。
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