米ボストンのノースイースタン大学では、ひざのリハビリ用の矯正器具に「スマート流動体」を取り入れる機械工学プロジェクトを進めている。この器具ではスマート流動体により抵抗を発生させ、負傷した関節に力を取り戻す手助けをする。
プロジェクトを指揮するコンスタンチヌス・マブロイジス教授と、研究技師で機械工学専攻の大学院生ブライアン・ウェインバーグ氏は、電界の中で粘度を変えるスマート流動体である電気粘性流体(ERF)を使う。ノースイースタン大学の研究室で使われているERFに電気を加えると、流動体の粘度が増し、外部からの負荷に対して強い抵抗を示すようになる。ERFは、粘性を持つ不伝導性オイルの粒子の懸濁液。
スマート流動体は自動車技術などのさまざまな産業分野や、米航空宇宙局(NASA)などで利用されているが、潜在用途が急増してきたのは最近になってからだ。マブロイジス氏によると、主に振動の吸収剤として利用できるため、スマート流動体は地震多発地域の建造物に利用できるだろうと科学者たちは考えている。
ニーブレース(膝装具)に使う場合、それぞれの患者が患部の関節に力を入れるのに必要な抵抗の強さに応じて、医者が抵抗値を決めることができる。市販のニーブレースに似た器具に取り付けられたバッテリー付きのアクチュエータで、抵抗を設定する。このアクチュエータはコンピュータから無線で操作する。アクチュエータに送る電圧を変えることで、アクチュエータ内のスマート流動体が発生させる抵抗量が変わる仕組みになっている。
マブロイジス氏らは、この器具が近いうちにボストンのスポルティングリハビリテーション病院の患者にテストされることを期待しつつ、手やひじ用の矯正器具の開発を進めている。また、第2世代のニーブレースの試作品も開発中だ。第2世代のブレースは基本的に、抵抗力を増やすことで筋肉を鍛えるエクササイズマシンと同じアイデアを使っている。各レベルの力を出せるようになると、抵抗が増えるのだ。
ウェインバーグ氏によると、スマート流動体を使った矯正器具で恩恵を受けるのは、「足をめったに使わないタイプの患者だ。患者のニーズに合わせて調整できる」。
手やひじ用の矯正器具にも同じ原理が当てはまる。ただし、抵抗を制御するアクチュエータはニーブレースよりも小型になるが。最初のニーブレースの設計では、「作動することだけに焦点を絞った」ため、アクチュエータが望ましいサイズよりも大きくなったとウェインバーグ氏。第2世代の設計では、アクチュエータの小型化に力を入れている。設計の変更に当たっては、スポルディング病院で働く医師の意見を取り入れ、抵抗が2方向から来るよう、患部の関節を押し戻す機能などを加えている。
「医師たちに最初に聞かれたのは、『押し戻す』ことが可能かということだった」とマブロイジス氏。同氏は6カ月前にニュージャージー州のラドガーズ大学からノースイースタン大学に転籍、続いてウェインバーグ氏もラドガーズ大学から移ってきた。
General Motors(GM)出資のプロジェクトでも、スマート流動体によるフォースフィードバック機能を取り入れたノブの開発に取り組んでいる。GMは次世代の自動車で、エアコン、ラジオなどの機能を複数のノブを使わず、1つのノブだけでコントロールできるようにしたい考えだ。このプロジェクトでは、円筒の内部にERFを入れた器具を開発している。円筒には電極の役割を果たす複数の銅の平板が含まれる。この流動体は300〜3000ボルトの電圧で活性化するが、ここでは通常の電圧を1500ボルトと設定。電圧を加えるほど、流動体の粘性は増す。
この実験器具の最上部に取り付けられたノブは、触ったときにさまざまな感触を再現する。運転手はこうした触感を頼りに、1つのノブだけで変えようとするものを伝えられる。ノブがどのように変化するかを示すために、ウェインバーグ氏はこの器具に接続したコンピュータに幾つかのコマンドを入力した。「純粋にバーチャルなものだ」とマブロイジス氏は語り、コンピュータのコマンドによってノブの触感が変化するのだと説明した。「まったく機械的なものではない」
「最終的な目標は、どれだけ多くの異なる触感を再現できるかを見極めることにある」(ウェインバーグ氏)
両氏は知的財産についてまだ特許を取得していないため、ノースイースタンのTech Transfer Officeを通じて知的財産を保護するまで、これらのリハビリ機器に関して技術的な詳しい話はできない。その一方で、両氏はLordから資金提供を受け、医療器具会社DJ Orthopedicsの器具を使い、流動体を使ったプロトタイプの開発を続けている。DJ Orthopedicsは、スポーツ選手などに向けたリハビリ・再生器具を専門としている。
またハイブリッドアクチュエータ開発のために、全米科学財団(NSF)から3年にわたって22万ドルの資金援助も受けている。これらアクチュエータのうち1つはERFを使ったもので、もう一方は押し返しが可能なアクティブコンポーネントの開発に向けたものだ。両氏はノースイースタン大学に贈られたNSF Research Experience for Teachersという助成金も受け取っている。この助成プログラムは、科学教師に実際の研究室で、自分たちが教えていることが現実の世界でどう応用されているかを学ばせるためのものだ。
クラーク中学校で2年生を教える自然科学教師のギーティカ・デッディー(Geetika Diddee)氏は、休みを利用してノースイースタン大の機械工学研究室に通っている。ウェインバーグ氏はデッディー氏に対して、分子単位のスマート流動体が機能する仕組みを教えようと申し出、ノースイースタンの機械工学工場で、デッディー氏が学校に持っていけるようなデモ用モデルを開発している。「子供たちは(モデルが発生させる)抵抗を感じ」、スマート流動体がどのように機能し、何に使えるのかを一層理解するだろうとデッディー氏は話している。
Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR