「新人の木村選手は、相手チームのデータにありませんからね」――去年から今年にかけて行われた、バレー全日本女子の国際試合の中継で、何度も聞かれた解説だ。
5月に開かれたオリンピック世界最終予選。世界ランク4位のイタリアに対し、同7位の日本は、17歳高校生の新人・木村沙織選手と、前回対戦時には出場していない大友愛選手を投入。相手のデータのない選手を使うことで、イタリアが得意とする“データバレー”のかく乱に成功、金星をあげた。
イタリアほど緻密(ちみつ)ではないが、全日本女子チームも、相手のデータ分析して試合に臨んでいる。PCにデータを詰め込んで持ち歩いているという柳本昌一監督は、イタリアのブロックのクセを分析、穴を見極めて大友に狙わせ、次々とスパイクを決めさせた。
イタリア、日本をはじめ、世界のナショナルチームが取り入れているデータバレー。両チームを含めた強豪のほとんどは、同じソフトを使っている。十数年前、イタリアのプロリーグ「セリエA」で生まれた。その名もずばり「データバレー」だ。
データバレーは、試合中の選手の動きをリアルタイムに入力するためのソフト。ボールコンタクトごとに、選手の背番号と、プレーの種類のコマンド(サーブは「S」アタックは「A」など)、ボールのコース(9分割して番号を振ったコートの何番から何番に飛んだか)、攻撃の成功(#)、失敗(=)を入力する。背番号14の選手が、コートの「1」番から「5」番に向かってサーブを打ってサービスエースが決まれば、「14S15#」といった具合だ。
入力したデータをもとに、選手別・ポジション別のアタック決定率や、サーブ、ブロックのパターン、レシーブの成功率などを瞬時に数値化・グラフ化できる。
イタリアの強さの秘密は、10年以上にわたるデータバレーの蓄積に裏付けられた分析力と、対応の素早さ。複数のアナリストがリアルタイムにデータを分析し、選手や監督に作戦を示唆。サーブやスパイク1本ごと、セットごとに、最も弱い場所を突いてくる。
同ソフトは試合後にも力を発揮する。「データビデオ」というオプションソフトと併用することで、試合中に入力したデータと、撮影しておいた実際の試合映像とを連動させられるのだ。
例えば、14番のアタックシーンだけを見たいなら、「14A」と入力するだけで、全アタックがずらりと並び、次々に映像を見られる。14番のAクイックだけとか、14番のAクイックで得点が入ったものだけなど、条件はいくらでも絞り込める。
「調子が悪い選手には、成功したアタックのビデオだけを繰り返し見せるなど、選手のメンタルケアにも使える」(「データバレー」「データビデオ」国内販売元のバレーボール・アンリミテッド河部誠一社長)。
データバレーの普及につれ、同じ攻撃パターンが二度三度とは通用しにくくなってきた。試合で勝つためには、それ以前の試合で手の内を見せないことがこれまで以上に重要になっている。
五輪出場10チームが参加した7月のワールドグランプリで、柳本監督は「オリンピックでは、全日本女子はまったく違う形のチームになる」と繰り返し話した。まだ手の内は見せていないという宣言だ。
柳本監督はタイムアウト時も、精神論ではなく、相手のどこを狙うべきかを冷静に指示する。“努力と根性”のイメージが強かった全日本女子バレーに、データを駆使した戦術を導入した柳本監督。前回はオリンピック出場すら逃した女子バレーを「メダルを狙う」と胸を張って宣言できるまでに復活させた。
柳本ジャパンが、独自のデータを駆使しつつ、相手のデータバレーをどこまでかく乱できるか。14日(日本時間午後8時から)の対ブラジル戦から注目の戦いが始まる。
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