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ワンセグ放送――鍵になるのは、携帯キャリアへの“配慮”(2/2 ページ)

» 2004年11月25日 18時34分 公開
[西正,ITmedia]
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 パケットが定額化されてからは、キャリアのビジネスモデルも変化した。通信コンテンツのプロバイダーへのアクセス数を高めて、そこから一定割合の収入を得ることが通信キャリアの収益の多くを占めるようになるからだ。テレビ側であまりに便利な情報が提供されてしまうと、通信コンテンツへのアクセス数が低下することになりかねない。

 そうかと言って、「テレビ放送が見られる携帯端末」が今後主流になっていくことは間違いないだろう。カメラ機能を搭載しない端末がほとんどなくなったように、いずれはテレビ放送の受信機能を搭載しないモデルは存在し得なくなるはずだ。

 テレビの買い替えサイクルが10年と言われている一方、携帯電話端末のそれは平均で20カ月だ。テレビ放送が見られる携帯電話端末がスタンダードになっていくのに、それほどの時間は要しないだろう。

 ただ、携帯キャリア側からすると、携帯電話の普及率をここまで高めてきた段階になって、テレビ放送が乗ってきて、放送局側に一方的に有利な使い方をされることは、とても手放しで歓迎できる話ではない。単純な話、テレビを見ていると、バッテリーは2時間程度で切れてしまうので、テレビ視聴はほどほどにしてくれないと困るという携帯キャリア側の事情は、当面変わらないはずだ。

 その点からも、放送局側は、携帯キャリア側にとってもメリットのあるサービス形態を早急に考えていくことが今後、不可欠になる。

放送局側の有利な点

 ワンセグ放送は、2008年まではサイマル放送が義務付けられている。放送局からすると一長一短のある規制だが、新たなコンテンツ制作のコストをかけずに済むというメリットがある。BSデジタル放送で苦労したのも、新たにコンテンツを用意しなければならず、広告媒体としての認知度が高まる以前の先行投資負担が大きかったからだ。

 ワンセグ放送については、サービス開始からしばらくは、そうした投資は不要である。それでいて、自然とサービスの認知度が高まっていくことのメリットは少なくない。放送局側から見れば、データ部分だけをそこそこのコストで制作し、そこから「どうやって商売を展開していくか」という発想を持てれば良いことになるわけだ。

 ワンセグ放送については、あまり長時間に渡って視聴される性格ではないと予想されるため、わざわざそのために制作したコンテンツだけで固める必要性は乏しい。系列のCS局であるニュースチャンネルのコンテンツを持ってくるか、固定とのサイマルを行うかが基本になるだろう。おそらくそれ以上のことをする放送局は出てこない可能性が大きい。固有の番組ということより、むしろアウトドアでテレビが見られることの利便性だけでも、それなりのアピール材料になるはずだ。

 ただ、放送局は自社のブランド力の高さを生かす形で、それぞれが人気の有料サイトを持っている。そこに誘導するために、ワンセグ放送を利用しようという動きは間違いなく起こってくるだろう。実際、そうしたことがやりやすいのも、放送局側の大きなメリットだ。

 そうすると、今あるモバイルサイトに誘導するか、全く新しいものを立ち上げるかという選択も検討課題になってくるはずだ。テレビ放送に限らずデータ放送画面がポータルになるということは、こうした使われ方も多くなるはず。ここにも携帯キャリア側が警戒する要素が少なからずあることになる。

 一方、NHKからすれば、「あまねく普及」が義務付けられていることから、固定と携帯の両方で見られるメリットを生かして、どこでも見られるようにするという使い方を考えていると思われる。ここでも、携帯電話端末によるテレビ受信時間が長くなる方向性が見え隠れする。

 以上のように、携帯電話端末にテレビ放送受信機能を載せることによって、放送局側のメリットが色々と考えられる。それだけに、携帯キャリアといかに“ウィン−ウィン”の関係を築いていくことができるのかを考えていくことが必要になるだろう。

 携帯キャリアへの配慮を欠いたまま、ワンセグ放送だけが一方的に栄えることは難しいということは、放送局側も十分に肝に銘じておくべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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