ITmedia NEWS >
コラム
» 2005年11月21日 11時30分 公開

小寺信良:「コピーワンス」大そもそも論 (2/3)

[小寺信良,ITmedia]

レコーダーはなぜコピーワンスになったか

 実際にコピーワンスの技術仕様を決めているのは、ARIB/社団法人 電波産業会という組織の「規格会議」である。そもそもこの組織はなんなのか、というと「ARIBの概要」というところに書いてあるように、通信・放送分野における電波利用システムの実用化と普及促進をする組織であることがわかる。

 放送のスクランブルに関する技術的な仕様を決めるのは、ARIBの仕事としては理解できる。だがそれから先を調べていくと、妙なことが見つかる。DVDレコーダーなどがコピーワンスの動作を実行するための技術仕様も、このARIBが決めているのである。現在もPCでデジタル放送を録画するには、PCIバスやメモリにスクランブル解除後のストリームを流してはいけないといった規定があるが、これもARIBが決めている。

 だがこれは何かおかしい。なぜならばARIBの概要にもあるように、そもそもここは電波に関する決めごとを行なう組織なのである。だがその組織が、放送を受信したあとの記録・伝送の部分まで規定していることになる。さらに技術規定しただけでなく、各メーカーに対して、強大な強制力を持っている。

 その謎は会員名簿を見ると、なんとなくわかる。そこには電気通信事業、放送事業に関する様々な企業名が上がっており、その会員の企業内の権力でもって、各メーカーの動向を規制しているのであろう。

 言ってみれば各メーカーや放送業者の技術のエラい人が集まって、放送に関係するすべてのことを勝手に決めて行っているわけである。これはB-CASカード運用を決めた時と同じように、この規格会議には学識経験者もいないし、消費者代表もいない。

 まあ技術仕様を決めるときに一般消費者などがいてもわけがわからないだけかもしれないが、少なくともその仕様が実際の運用に組み込まれる前に、それがもたらす影響などを検討するためには、学識経験者や消費者を含む審議の場が必要だろう。

 コピーワンスの運用は、大義名分としては著作権保護のためとされており、実際にこの規定によって国民の義務・権利が縛られている。だが実際に運用に至るまでで、そんな議論をする場などないのである。

 米国では、著作権保護技術であるブロードキャストフラグは無効、という判決が出たのはご存じの通りだ。このブロードキャストフラグの導入を図ったのは、FCC/米連邦通信委員会という、政府組織である。だが米司法当局は、政府組織ですらそんな規制をする権利はない、と判断したのである。

 同じ論理を日本に当てはめたら、政府組織でもなんでもないARIBの異様なまでの権限は、司法でどう判断されるのか、非常に興味あるところだ。

JEITAは電子の国からやってきた僕らのヒーローか

 11月17日、JEITA/社団法人電子情報技術産業協会は会長定例会見の席で、「放送事業者とコピーワンス見直す方向で調整に入る」との意向を示した。これは今年7月に総務省が発表した2次中間答申の中に含まれる、「コピーワンスの見直し」を受けて、我々消費者の目に見える具体的な動きとして捉えることができる。

 この活動は消費者の立場に立ったものであるとして、応援する人も多いはずだ。だがARIBの内訳を知ったあとでは、これは結構面白い話になる。

 要するに、自分らの会社の技術畑のエラい人がどんどこ変なふうに決めてっちゃったことで、自分たちがものすごく商売がやりづらい立場になってしまった。利益を追求する経営陣としては、オマエらええかげんにせいよ、全然儲からねえじゃねえかと、いうわけである。右手と左手が喧嘩しているようなものだ。こんな痛快さを秘めながらもどことなくシニカルに笑える話は、近年珍しい。

 まあ戯れ言はともかく、JEITAが何をしようとしているかというと、ARIBの権限は放送局から電波が出て、テレビチューナーに入ってテレビに映るまでにしてもらおうじゃないか、と。そこから先どうやって録画するかは、オレ達に決めさせろ、と、こういうことなのである。

 現状のままコピーワンスが続けば、録画産業は確実に衰退する。1回しかコピーできなければ、メディアの売り上げは激減するだろう。またメモリーカードのようなものにコピーしたらオリジナルが消えちゃう、ということになれば、そういう行為をする人もいなくなる。あらゆる映像記録メディアは、「録画できる可能性はある」という事実だけを残して、衰退していくところだったのである。

 だがコピーワンスを撤廃して、家庭内での自由な運用が認められれば、メディアの売り上げは伸びるし、録画機も売れる。電子機器産業全体が潤うわけである。

 コピーワンスは、大義名分はどうあれ、本質は著作者の権利を守るなんてことなど目的としてない。守るのは、企業の利益だ。それが損なわれるとわかったから、企業のスポンサー収入で食っている放送局側もなんとかかんとか理屈を付けて、撤廃することに関して二つ返事なのは、当然なのである。

次ページ「じゃあ著作権の話はどうなったんだっけ?」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.