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ネット広告の急伸をどう評価するか?西正(1/2 ページ)

» 2005年12月15日 17時13分 公開
[西正,ITmedia]

「単価×数量」で見るべき

 ネット広告市場の拡大が著しい。新たなメディアの場合には、伸び率だけを見れば既存メディアを上回るのは当然のことである。しかし、2005年に入り総額ベースでもネット広告費がマスコミ四媒体の一角であるラジオ広告費を上回るに至り、いよいよ次は新聞広告費やテレビ広告費の市場にも影響があるのではないかという声も多い。

 もっとも、そうした期待と危惧を抱く前に、メディアとしての性格の違いについては再確認しておく必要がある。新聞やテレビはマスメディアであり、一斉同報的な機能については未だに他の追随を許さないものがある。ネットの世界でも強力なポータルサイトを持つ事業者には今後、徐々にだがマスメディア的な機能を発揮し始める可能性はあるが、大半はリーチの小さなメディアである。ただ、1つ1つのリーチは小さくても、星の数ほどのサイトがあって、帯域やら紙面の限界が実質上ないという強みもある。

 広告費総額を比べる際は、基本の基本である「単価×数量」で考えれば、新聞やテレビの場合は単価が高く数量が限られているのに対して、ネットの場合は単価が小さく数量が圧倒的に多いということだ。

 そうした違いは、広告を出稿する側のスポンサー企業がよく心得ている。同じテレビ広告の中にも、全国規模で広告を流すナショナルスポンサーと、エリア限定で広告を流すローカルスポンサーに分かれる。ナショナルスポンサーとローカルスポンサーの違いは、別に資金力の大小によって決まるものではない。全国画一で広告宣伝を行うのが適している商品もあれば、エリアの特性に応じて広告宣伝する商品自体を変えるケースもある。まさに、スポンサー企業のニーズによるのである。

 米国のように広大な国土を持つ国を念頭に置いて考えれば明らかだが、ある時期に電気製品のCMを流すにしても、カナダに近い地域では暖房機器を、メキシコに近い地域では冷房機器を取扱うことになる。自動車のように全国画一に見える商品でも、雪の降る地域とそうでない地域とでは、タイヤの種類からして異なってくる。

 つまり、広告に求められる効果を考えれば、必ずしも単価の高いCMを全国規模で流せば済むほど簡単ではなく、単価の小さなCMを数多く流すニーズも存在するということだ。

 さらには、いわゆる「説明商品」を持つ企業にとっては、マス媒体で広告を出稿する以前に、まずは商品の認知度を高めておかねば意味がない。

 スカパー!が巨額の対価を払って日韓共催のサッカーW杯の放映権を手に入れたのも、単純に強力なコンテンツを持ちたいという狙いだけではなかった。

 多チャンネル放送というサービスが浸透していない中で、テレビでスカパー!のCMを流しても効果はない。ただ、注目のイベントの放映権を獲得することで、新聞の一面をニュースとして飾り、ニュース価値を高めるために記者が紙面でスカパーの説明を書くという効果がある。CMを流すには対価が必要だが、記事として採り上げられ取材を受けるのであれば、コストをかけずに大きな宣伝効果が得られる。そうして認知度が高まった段階以降は、テレビでのCMも効果を持ち始める。

 しかし、説明商品を抱える多くの企業が、それと同じ手法が使えるわけではない。単価の高い広告によって長々と商品の説明などを行っていたら、費用ばかりかかって、とても広告を流し続けることはできない。まして一斉同報であるが故にワンチャンスのCMでは、その時間帯にどれだけの人がCMを見て、商品説明を見聞きしてくれるのかも分からない。

 そうした説明商品を抱える企業にとっては、ネット広告というより、マス媒体と連動させる形などで自社のネットサイトにユーザーを誘導し、そこで商品説明を心がけるという使い方になる。それをネット広告とは言わない。

 ネット広告の1つ1つを見ると明らかなように、広告を見るつもりなどなくPCに向かってアクションを起こしているユーザーに対して、企業名、サービス名、ロゴなどを画面上の四方八方に散りばめ、何となく脳裏に焼き付けるようなものが多い。うまくユーザーの関心を惹きつけ、自社サイトに誘導できればベストだが、そのための手法は未解決に近い。

 ネット広告は単価が安いために出稿しやすいというメリットはある。それが数量を重ねることによって総額で大きなものとなるかもしれない。しかしながら、広告効果について慎重に検討すればするほど、今のところ、ネット広告スポンサーの大手は、新聞やテレビのスポンサー企業と同じである場合が多い。新聞広告やテレビ広告の市場への影響まで考えるのであれば、そうした実態を踏まえておくべきだろう。

 大手スポンサーの多くは、既存のマス媒体での広告を削ってまで、ネット広告を活発に行っていこうとは考えていない。補完的な位置付けである以上、相乗効果を期待することはあっても、代替させることまでは考えないということだ。

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