ビデオカメラの映像価値を下げている要因の1つが、絞りの構造だ。ビデオカメラの場合、ほぼ例外なくひし形絞りを採用している。
この絞りの方式はかなり古くからあり、廉価なフィルム式のコンパクトカメラでよく使われてきた。だが現在、数万円クラスのコンパクトデジカメでひし形絞りというのは、まず考えられない。現在のコンパクトデジカメでは、2段階程度の丸い絞り穴のパネルを順次入れるといった、もっと単純な手法を使っている。絞り値が解放も含めて3段階しかないという問題はあるものの、絵としては破綻なく作られている。
このひし形絞りの最大の問題点は、ボケの形がひし形になってしまうことだ。背景にひし形の光がちりばめられている絵は、静止画ではあまり気にならないかもしれないが、動画となってワラワラ動くと、相当にうっとうしい。
これはビデオカメラの撮像素子が小さいので、どうしてもボケ足が小さくなるという要因も関係している。つまり大きくボケれば絞りの形は問題なくなるのだが、ちょうど中途半端なボケ具合になるため、ひし形という特殊な形状の形がわかってしまうのである。
問題があると承知しつつも、ビデオカメラがひし形絞りを採用し続けるのには、いろいろな事情がある。まずビデオカメラでは、静止画のカメラと違って絞りを動的に、しかも滑らかに連続して動かしていなければならない。これを実現するには、2枚の羽根で絞りを形成できる単純な構造のひし形絞りは、メリットがある。
絞りの穴の形状を円に近づけるためには、たくさんの羽根を使わなければならないわけだが、どうしても構造が複雑になり、コストがかさむ。また常時動作させるのにも、それに応じたトルクが必要になる。
それゆえビデオカメラでは、価格は10万超えでありながら、絞りは昔のコンパクトカメラ並みのものが付けられているということになる。つまりビデオカメラで撮影すると、これまでコンパクトデジカメですら出会わなかったような、安っぽい珍妙なボケに遭遇して、愕然とするわけである。
確かにズーム倍率ではビデオカメラのほうに有利な点もあるのだが、倍率を上げるほど被写界深度が浅くなり、ひし形絞りの問題もまたクローズアップされてしまうというジレンマに陥る。
このような作りを続けていれば、やがてビデオカメラ市場は少子化傾向のあおりを受けて、加速度的に縮小していくだろう。そもそも絵として、全然美しくないからだ。それならデジタル一眼で動画撮れないの? という方向に集約されていってしまう。
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