麻倉怜士のデジタル閻魔帳
ソニーの久夛良木から、全人類の久夛良木へ(1/4 ページ)
4月26日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI) 久夛良木健会長兼グループCEO(最高経営責任者)の退任が発表された。プレイステーションの生みの親として知られる人物であり、今後も名誉会長という形でかかわっていくものの、取締役も辞し、今後はSCEIと一線を画して活動していくことになる。
多くの人が驚きを隠せなかったこの退任劇だが、一介の家庭用ゲーム機の生みの親が職を退くだけでは、これほどの驚きを与えることはなかったと思われる。それは、久夛良木氏が、ゲームという枠にとどまらない、デジタルエンタテイメントにおける希代のビジョナリーとしても遺憾なく才能を発揮してきたからでもある。
今回の「麻倉怜士のデジタル閻魔帳」は、その久夛良木健氏に密着取材を敢行した著作「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、現在はワック出版「久夛良木健のプレステ革命」に収載)があるほか、自身も交友がある麻倉氏に、今回の退任劇の感想から久夛良木氏がデジタルエンタテイメントの世界に与えてきた影響などを語ってもらった。
突然の辞任劇、久夛良木氏の原動力
――夜11時近くになってからプレスリリースが発表されるなど、突然という感の強い今回の退任劇ですが、率直なところどのような感想をお持ちになりましたか?
麻倉氏: 実は、私と久夛良木さんはホームシアター愛好家という間柄なのです。ある時、スクリーンはどれがいいかなんて話をしていたのですが、別れ際に「ちょっと」と声をかけられ、人のいないところに連れて行かれ、「(現職を)降りることにしたんだ」と突然、告白されました。
そのとき、「ああ、これで久夛良木さんはやりたいことができるようになるんだ。素晴らしいことだ」と直感的な思いました。人類のためにやりたいことができるかな、とも思いましたね。握手をして、全人類のために頑張りましょうといいました。そのときの久夛良木さんは、とてもさばさばしているように感じられました。
――「久夛良木健」という人物はさまざまな言葉で語られます。プレイステーションというゲーム機を作り出したプランナー、ビジネスマンであり、技術者であり、また、経営者でもありました。人物像をどのように評価されますか。
麻倉氏: 何百年という長いスパンで評価するならばとにかく、大変に稀有な才能の持ち主であることは間違いないでしょう。彼のすごさは、革命家と事業家の両方の資質を十分に備えながら、一般ユーザーの眼も兼ね備えていたことです。革命家としての側面だけを取りあげても、ビジョンと行動力を兼ね備えていたことは特筆に値します。自分の想いを現実にできるひとはそうそういませんからね。
彼の仕事ぶりは若い頃からソニーでも突出していたそうです。私は1998年に「ソニーの革命児たち」という書籍を刊行するにあたり、本人を含め非常にたくさんの人に取材をしましたが、当時を知る人は異口同音に「彼は若い頃から飛び抜けていた」と言っていました。
本当の意味で頭角を現し始めたのはプレイステーションの開発プロジェクトを手がけたあたりからですが、アナログメーターが当たり前だったカセットデッキのピークメーターに液晶パネルを導入するなど、若くして飛び抜けた存在だったことを示すエピソードにも事欠きません。
久夛良木氏の実家は印刷業を営んでいましたが、決して経営が楽なわけではなく、まだ少年だった彼も可能な限り家業を手伝っていたそうです。その後、彼は電気通信大を卒業するのですが、「僕は技術者だけれど、経営者だ」という彼の言葉は、こうした経験から出たものでしょう。
久夛良木氏は熱い想いに技術を重ね合わせることができたのです。普通は「考えること」と「実行すること」は分離してしまいがちですが、彼の中では混然一体となっていました。それがこれまでの偉業の原動力のひとつでしょう。
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