吸うべきか? 吸わざるべきか? シェイクスピアは「ジュリアスシーザー」で移ろいやすい民心を描いたが、本作はタバコの情報操作に踊らされるアメリカ民衆をシニカルに描いた風刺コメディ。“サンキュー”ってことは喫煙賛成映画? むしろ真逆で喫煙反対映画? “そんなの関係ねー”てな映画です!
発売日:2007年9月7日 価格:3990円 発売元:20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン 上映時間:93分(本編) 製作年度:2005年 画面サイズ:シネマスコープサイズ・スクイーズ 音声(1):ドルビーデジタル/5.1chサラウンド/英語 音声(2):ドルビーデジタル/5.1chサラウンド/日本語 音声(3)音声解説 |
嫌煙家にも、愛煙家にも、かつ現在禁煙中の人にも。タイトルに「スモーキング」という言葉が入っているが、この作品はタバコをテーマにした映画ではないとあえて最初に言っておこう。それは監督のジェイソン・ライトマン本人も多くのインタビューでそう答えている。では何を描いているのか?この映画が取り上げている題材、それは“スピニング”と言われる情報操作だ。
スピニングとは、発信者が自分たちに有利になるように情報を巧みに操作して世論を丸めこむこと。決して嘘をついているのではなく、真実を巧みに並び替え、情報をうまく操作すること。
物語の主人公はタバコ業界を代表する敏腕PRマン、ニック・ネイラー(アーロン・エッカート。割れたアゴがチャームポイントという珍しい俳優)。巧みな話術を武器に世論と戦う姿を描いた風刺コメディだ。
1日に1200人を殺すといわれるタバコに対し、男は世間の攻撃をかわすため連日マスコミの矢面に立って戦い続けている。もちろん彼もタバコの害は百も承知。彼はあらゆるシーンでタバコとタバコ業界を擁護するが、決してタバコを吸わせることを目的としているのではなく、喫煙の自由という概念を宣伝しているだけ。得意の弁論でタバコに対する世論の悪い風潮を丸めこみ、“情報操作の王”とも呼ばれている。
その主戦場はテレビの公開ディベート番組。肺を守る会の婦人たちや保健省の役人、肺ガンの少年ら、ニックにとっては圧倒不利な集まりの中でも、その話術で保健省を打ち負かせ、最後には少年と握手までして論争を円満に終わらせる。タバコ復権のためにハリウッドスターに映画の中でタバコを吸わせようと画策したかと思えば、タバコの全てのパッケージにドクロマークを入れようとするフィニスター上院議員(ウィリアム・H・メイシー。やっぱり「ファーゴ」を思い出す)を口八丁手八丁で打ち負かす。
自分の才能をいかすためにこの職業を選び、たとえ憎まれ口を叩かれても“ローン返済のため”に働き続けるニック・ネイラー。嫌煙家であろうと愛煙家であろうと、彼の言葉を追っているだけでまさに痛快。相手の質問に質問で返し、争点をすり替えながら、相手よりもまずは周りで聴く者を味方に取り込んでいく。
圧巻はマルボロ・マン(ひょっとして素?サム・エリオット)を買収しに行くシーンだ。かつてタバコの広告塔として活躍しながらも、現在癌を患いタバコ業界を訴えようとしている初代マルボロ・マン。彼の家を訪れたニックは玄関先でライフル銃を向けられる。しかしそんな危険な状況の中でもニックは冷静だ。
マルボロ・マンの現状に激しく同情しながら、持ってきたジェラルミン・ケースから札束を大げさにばらまき、「受け取らずに、マスコミを呼んで全額寄付をしろ」と伝える。大金を生で見せられたマルボロ・マンは、全額はもったいないと思い出し、家族の保障分に少しだけと、ついにはお金の受け取りを拒むことができなくなってしまう。結果、買収成功。ニック・ネイラー、この男ただものではない。映画1本撮るに相応しい、それぐらいの魅力溢れるキャラクターだ。
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