発売日:2007年11月11日 価格:3990円 発売元:バンダイビジュアル 上映時間:107分(本編) 製作年度:2007年 画面サイズ:ビスタサイズ・スクイーズ 音声(1):ドルビーデジタル/5.1ch/日本語 音声(2):ドルビーデジタル/2.0chサラウンド/日本語 |
1986年のフライデー襲撃事件で確信犯的に芸能生命の危機に立ち、94年のバイク事故では、文字通り生死の淵をさまよった。そして前作の「TAKESHI'S」(05)では、もう1人の自分に刺し殺される大スターを演じている。
「監督・ばんざい!」の特典インタビュー映像で北野武は語っているが、「TAKESHI'S」には彼の鬱がもろに出ている。これは2つに分裂した自分が互いに侵食し合うというドッペルゲンガーな物語で、1人は売れない俳優志望のコンビニ店員・北野。もう1人はリッチな生活を送る芸能人・ビートたけし。
「TAKESHI'S」を作っている時は精神的にも肉体的にもかなりつらかったらしく、そのつらさはそのまま映画からにじみ出ている。作中描かれる芸能界の内側はひどくスノッブで、タレントもスタッフも中身はカラッポ。大御所ビートたけしが現われると、演出家はたけしの機嫌を損ねないことばかりに腐心して、クランクアップ後のお決まりの花束贈呈も、たけしにとっては煩わしいだけ。
“ビートたけし”にあずかろうと笑顔で群がる業界人も、そのいかがわしい世界も、なによりそこで天下を取ってしまった自分自身への嫌悪感が、剥きだしで描かれている。「こんな自分は、いっそのこと殺してしまおう」。そして、ビートたけしはもう1人の自分、すなわちスターになっていなかったら、こうなっていただろう北野に殺される。
興行的には苦戦した「TAKESHI'S」なのだが、これ、私は非常に好きなのです。気が滅入るほど内省していて病的な面すらあるけれど、北野映画で監督がこれほど自分自身を赤裸々にさらけ出したものはなかった。思えば小学生の頃、夢中で観ていた“タケちゃんマン”だった頃から、笑っていても目が怖かったビートたけしの冷たさに納得がいったのは、彼が作った映画を観るようになってから。監督作の中で、たけしは度々死ぬが、それは必ず自殺である。「TAKESHI'S」はたけしの自己破壊願望を丸々1本かけて描き、鬱状態だったからこそ、笑いで包まれない部分が剥き出されていた。テイストとしては、故・色川武大の小説「狂人日記」に近い。
鬱の後には躁がくる。「TAKESHI'S」が鬱状態のたけしならば、「監督・ばんざい!」はまさに躁。鬱をくぐり抜けての躁だから、これは相当なテンションですよ。「TAKESHI'S」で、たけしが芸能界を嫌悪していることは、よ〜く分かった。けれど、タイトルとは相反するけれど、どうやら映画界もそれほど好きではないらしい。というよりも、今現在の日本映画界が、嫌いらしい。
本作も、主人公はたけしである。得意のギャング映画を「もう撮らない」発言をした映画監督キタノ・タケシは、ヒットする映画を作ってやろうと売れ筋のジャンルに挑戦する。海外で受けそうな小津安二郎風モノクロ人情劇。昭和30年代ブームに便乗したタケシ版「ALWAYS 三丁目の夕日」。ハリウッドでのリメイクも視野に入れたJホラー。手堅いヒットの見込める純愛もの。やはりブームに便乗したアクション時代劇などなど。しかし、企画はどれも途中で頓挫して、俺にはヒット映画は無理、と絶望するタケシ。ここでもマインドBこと、タケシの分身であるタケシ人形が監督と行動を共にして、痛みを引き受けてくれる。
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