臨場感のある音場を再現する「サラウンド」は、ホームシアターに必須の音響システム。現在は、音を聴く人間の正面と左右前方、左右後方のスピーカー5基に、低音出力用のウーファーを加えた計6基を利用する「5.1chシステム」が主流だ。
この5.1chシステムを利用するためには、スピーカーやアンプなど出力機器のほか、ソフト側での対応も必要となる。DVDのパッケージにある「Dolby Digital」や「DTS Surround」などのロゴは、一般的にはDVDに6つのスピーカーに対応した6チャンネル分の音データが収録されていることを意味する。これが「サラウンド方式」で、DVDなどの光学メディアに記録されたデータ(ソース)と、それを解読するための機器(プレーヤー/デコーダー)が必要になる。
近頃耳にする「次世代サラウンド」は、平たくいえば次世代DVDに採用されている現行サラウンドシステムの強化版。下表に挙げた4つの規格は、前述の分類でいえばソフト系統における改良だ。対応するチャンネル数が最大で7.1chに増加(後方にスピーカーを2基追加)という出力機器側の変更もあるが、ソフト側の変更のほうが影響は大きい。
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この4つの規格は、ドルビーとDTSの2社が提案したサラウンド方式。いずれも次世代DVDのHD DVDとBlu-ray Discでサポートされる音声データの圧縮を伴う新規格だ。なお、次世代DVDでは無圧縮のリニアPCMでもサラウンドを実現できるが、ここでは割愛する。
新しい4つの規格は、圧縮した音声が完全な形に復元できるか(可逆圧縮=ロスレス)、できないか(不可逆圧縮=ロッシー)の2種類に分類できる。Doby True-HDとDTS-HD Master Audioは前者のロスレスタイプで、圧縮のメリットを受けつつPCMに匹敵する高品位な音を楽しむことができる。
注目すべきは、Blu-rayとHD DVDにおける対応の違い。DTS-HD Master Audioを例にすると、BDでは最大ビットレートが24.5Mbpsだが、HD DVDでは18Mbps。単純に最大ビットレートだけで判断すれば、BDのほうが有利に映る(一般的にビットレートの大きいほうが音質面で有利)。しかし、Dolby Digital Plusでは、Blu-rayが最大1.7Mbpsであるのに対し、HD DVDでは最大3Mbps。HD DVDではDolby True-HDとDigital Plusでデコーダの装備が必須となっているが、BDではすべてオプション扱い。
とはいえ、DVDで使用されているサラウンド方式の1つ「Dolby Digital」は、最大ビットレートが640kbps(DVDビデオでは448kbps)。もう1つの「DTS Surround」も最大1509kbpsと、次世代方式に比べるとかなり劣る。スペックだけ見ると、Dolby Digital PlusとDTS-HD HR Audioはチープな印象を受けてしまうが、実際はDVDより圧倒的に情報量が多く、高音質が期待できる。次世代DVD全般にいえることだが、あとはソースの充実を願うばかりだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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