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AQUOSとBRAVIA、LEDバックライト制御の違い本田雅一のTV Style

» 2008年10月14日 10時53分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 「CEATEC JAPAN 2008」の初日に発表したシャープ“AQUOS”の新製品は、“液晶のシャープ”を具体的な製品で表現しようと意欲的な新技術を投入してきた。3月1日に発表した超薄型液晶テレビのAQUOS Xシリーズ(XJモデル)はバックライトにCCFL管を用いていたが、これにLEDバックライトを採用したXSモデルが追加されたのである。店頭想定価格は65V型が128万円前後、52V型が98万円前後と、液晶テレビではソニー“BRAVIA”XR1シリーズを超えてもっとも高価な製品となる。

photo LEDバックライトを採用したAQUOS Xシリーズ(XSモデル)。高彩度の色表現を可能にしたのはLEDの積極的な活用方法にある

 超薄型デザインやネットコンテンツへの対応、液晶付きBluetoothリモコンをはじめ、世界の名画データを収録し、未使用時に省電力モードで絵画を表示する「ピクチャーモード」、あるいは資本関係のあるパイオニアと共同開発したスピーカーを使うなど、最高峰の製品としてさまざまな創意工夫が凝らされているこの製品。スペックや機能は、報道されている通りなので、製品概要を知りたいのであれば、本誌のニュース記事を参照していただく方がいいだろう(→65V型で2.28センチ――LEDバックライト装備のAQUOS「X」)。

 ということで、ここではスペックからは分かりにくい部分について、もっとも性格的に近いBRAVIA XR1との違いを含めて紹介していきたい。

 画質関連の部分でXSモデル最大の注目点は、“RGBG”と並べたLEDアレイを、各原色ごと個別に制御することで高彩度の色表現を行っていることだろう。LEDアレイをバックライトに用いると、原色ごとに明るさを制御しなくとも色再現の範囲は広がる。LEDの発振周波数の範囲は非常に狭いため、LEDアレイの光をカラーフィルターに通すと、高い色純度が得られるからだ。

 しかし各画素ごとに、多少の漏れ光は出てしまい、それが色純度を下げる原因になっている。そこでXSモデルでは、表示する映像に合わせてRGBバランスを調整したバックライトのエリア制御を行うことで、色純度を高めようとしているのだ。例えば真っ赤なバラの後ろでは、バラの赤に合わせたバランスで各色LEDを光らせる。最初から余分な光がなければ、色純度は下がることはない。

 BRAVIA XR1が明るさのみのエリア制御だったのに対し、より積極的に色の領域までバックライトで制御して、それによって液晶の弱点をカバーしようという狙いだ。その効果は明らかで、部屋を真っ暗にして見ても黒輝度が浮いて見えることはない。制御の傾向はXR1よりも積極的で、明暗のコントラストはXSモデルの方が視覚上、大きく見える。また色再現域拡大も明白で、とくに赤、緑、黄色などの原色は鮮烈だ。

photo 未使用時に省電力モードで絵画を表示する「ピクチャーモード」

 ただ、広い色再現域を使って鮮やかな色を見せようという意図が見えすぎるのは難点。肌色を中心とした中間色は比較的自然に表現しつつ、色飽和度が徐々に高くなってくると急に彩度が伸びるので、パッと見の映像は鮮やかだが、見慣れたコンテンツを視聴するとやや不自然な描写に感じるところも出てきてしまう。

 バックライトのエリア制御を行う上で鬼門となる、点光源周辺がボンヤリと明るくなる現象も、やや目立つように思えた。XSモデルはBRAVIA XR1などよりも多くのLEDアレイを用いており、つまり1つのLEDアレイが担当するエリアも小さい。XSモデルが、より積極的にコントラストやカラーをダイナミックに動かせるのも、LEDアレイの数が多いからだと推測される(ただし、その分、高価でもあるが)。このため点光源周辺の“またたき”も、領域そのものは小さいのだが、輝度変化の幅が広いので若干気になるケースも出てくるのだろう。

 このためか、画質モードを「シアター(映画)」にすると、LEDのRGB制御は行わない。明暗のみをエリア制御する動作へと切り替わり、色再現範囲も狭くなって保守的な絵作りへと変化する。XR1よりも明暗のコントラスト幅は広く取る制御のため、点光源に対する振る舞いに大きな違いは感じないが、ほかの画質モードよりは落ち着いた“見え味”になる。

 同じLEDアレイを用いた技術革新に挑戦しながらも、ソニーは保守的にLEDエリア制御の弱点が感じられにくいよう徹底しているのに対し、シャープはLEDエリア制御の良さを前面に押し出したショーケース的作り。この対比がなかなか面白いが、おそらく店頭での対決ではシャープの方にメリハリの良さを感じるだろう。それを良いと判断するか、それともやり過ぎと判断するかは購入する人それぞれといえる。

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