新しいDACにこれほどまでにこだわったのは、素性の良い「ダイレクト・パワーMOS-FET」の能力をもっと引き出したかったからだ。AVアンプは今、これまで以上に機能性が求められているが、アンプである以上やはり基本は音質であるという原点に立ち返っての選択である。
そうした部分に注力しつつ、このモデルはUSBDAC機能を装備してDSDに関しても5.6MHzのネイティブ再生に対応している。またLX57同様、自動音場測定にパイオニア独自の開発となる「MCACC」を採用し、LEFチャンネルのずれを補正する「フェイズコントロール・プラス」機能の精度を改善したこともうれしい。
しかしながら、そうした進化とは裏腹に、このモデルにも残念な部分がないわけではない。それは外観が一昨年の「SC-LX85」からほとんど変わっていないことだ。AVアンプは機能だけで成り立つものではなく、音質が伴ってこそ進化が認められる製品である。ところが機能性を高めればコストもアップするため、同一価格帯でそれを実現するのは容易なことではない。そのためにこのモデルも前作の資産を最大限に生かして合理的にコストを吸収している。新鮮味がないといえばそれまでだが、中身で勝負することに彼らは総てを託したのである。
そしてこのAVアンプには2つの“勲章”とも呼べるお墨付き、THXとエアースタジオの2つの認証が与えられていることも忘れてはならないだろう。今ではそれほど大きく取り上げられることもなくなったが、「THX Ultra 2 Plus」というTHXのアプルーバルには、余計なお節介といえる部分もなくはないが、ことパワーアンプ部に関しては極めて厳格な審査がある。一般家庭ではほとんど使われないであろう出力領域におけるひずみ率やノイズ特性、クロストークがこと細かく規定されているのだ。設計陣はそうした数値をクリアしなくてはならず、認証が終わるまで気を許すことができない。
またTHXの要求は映画サウンドの観点から出されるのに対して、エアースタジオの認証はレコーディングスタジオのHi-Fi的見地からのリクエストなので、物理特性に官能評価も加わる。彼らがこの認証を取り続けているのは自らに言い訳しないことを第三者機関によって立証しているのだと思った。
それではファンならずとも進化の度合いが気になるであろうこのモデルの実力をお伝えしよう。ポールアンカが芸能生活55周年を記念してリリースしたCDアルバム「デュエット」からフランク・シナトラとのカップリングとなる「マイウェイ」を聴いてみた。
この楽曲はシナトラ亡き後にオーバーダビングしたものなので、シナトラの歌詞の部分だけ音が古いし若干ひずみっぽいところもある。アンプの素性が悪いとひずみが増えた感じになる面倒くさい曲だが、そうした振る舞いを感じさせないところに作り手の思いがしのばれる。一般的にノイズ感を低減するとディティールも薄くなる傾向だが、このモデルにはそれがないのだ。32bit変換の恩恵もあるのだろうが、やはりこのDACの特性を引き出そうとする努力のなせる技といってもいい。
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