東京・世田谷区にある「NHK放送技術研究所」(技研)が5月29日(木)から6月1日(日)まで一般に公開される。2020年の東京オリンピックを目指して開発を進めている8Kスーパーハイビジョン(SHV)を中心に、31の研究成果を展示する。今年もAV評論家・麻倉怜士氏に展示品を解説してもらおう。
――今年もNHK放送技術研究所の一般公開が始まりました。
麻倉氏: 技研公開は今回で68回目になります。今回の特徴としては、やはり8Kを全面に押し出していて、4Kに関係する展示はほとんどなかったことでしょう。4K試験放送がスタートする直前というタイミングも、皮肉なことなのか、意義のあることなのかは分かりません。
もちろん、4Kをツールとして使っている展示はありました。例えば4Kから2K(フルHD)画像を切り出して手ブレ補正として活用する技術は実用性が高いと思いますし、8Kのレコーダー展示でも4Kモニターを4台組み合わせていた例もあります。それでも、展示を見ていると「4Kはどこへいったのか?」という気持ちになりますね。
一方、放送局としてのNHKは、4Kを制作する体制を急速に整備しています。前回紹介したように「MASAMUNE」を使って多くのコンテンツ制作に取り組んでいます。実は8Kコンテンツの制作はかなりハードルが高いので、4Kを挟むことでスムーズに8Kにも移行できるという目論見はあります。逆に8Kでコンテンツを潤沢に制作できるようになれば、ダウンコンバートや切り出しといった手段で4Kや2Kにも展開できますから。
麻倉氏: 技研は先進的な取り組みを基調としていますが、同時に開発したフォーマットや技術をどのように普及させるかという研究も行っています。目を引いた展示の中に、ソニーの業務用カメラ「CineAlta F65」を活用するベースバンドプロセッサーがありました。
CineAltaは4K撮影のためのブランドと位置づけられていますが、F65の撮像素子は実は「4k以上8K」未満の単板式CMOSセンサー(有効画素数は約1900万画素)。RAWデータなら、一応8K的な信号まで取り出すことができます。それを8Kビデオ信号(8K Dual Green:視感度の高いGreen帯域を2倍にすることで8K解像度を実現する方式)にリアルタイム処理するのがベースバンドプロセッサーの役割で、さらに4Kと2Kへのダウンコンバード処理も平行して行うことができます。ソニーから7月に発売される製品の先行展示でした。
NHKという枠の中であれば、技研が開発した最新の8K撮影機材を使うこともできます。しかし、そのほかの放送局が8Kコンテンツを作るにはどうすれば良いか。その課題に対し、一般的な4Kカメラで8K撮影が行える環境を作るというアプローチです。物作りだけでなく、より広範に展開して8Kの普及を目指すという意志がひしひしと感じられました。
麻倉氏: 展示会場は“8Kワールド”といった趣ですが、中でも目立っていたのはカメラです。1つはアストロデザインが開発に協力した120Hz対応の単板式小型カメラ。8Kでは現在の倍にあたる毎秒120フレーム表示が可能になり、アクションやスポーツ番組をより鮮明に映し出せると期待されていますが、昨年までは撮影できるカメラが存在しませんでした。しかも今回の展示機はレンズ部分を除くと151(幅)×125(高さ)×135(奥行き)ミリと小型で、重量はわずか2キログラム。昨年「小型カメラヘッド」として展示したものの120Hz対応版ですから、クレーンやリモコン雲台などを使ってさまざまな撮影が行えます。
展示ブースには、技研が開発した歴代8Kカメラが並べられていて、この10年ほどの間にどれだけ小型化したかが分かります。2000年に登場した初代は80キログラム、2005年の2代目が32キログラム、さらに20キログラム、5キログラムと小さくなり、昨年2キログラムのカメラヘッドが発表されました。ちなみに20キログラムの3代目は、現在FIFAワールドカップの撮影のためにブラジルへ出張しているそうです。
前述のように、なるべく早く8K撮影機会を増やし、4K/2Kにダウンコンバートする環境を整えることは重要です。そのほうが画質的にも有利で、現在の放送はもちろん、将来にわたって活用できます。ハンディーカメラを作り、8K撮影の機会を増やそうとする技研の意図がよく分かる展示でした。
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