ITmedia NEWS >

同じ4Kでも動画配信とは“桁”が違う――映画監督が見つけたUHD BDの存在意義とは?(2/3 ページ)

» 2017年11月24日 19時58分 公開
[天野透ITmedia]

 そんな樋口監督は現在、NHKの4K HDR収録ドラマ「精霊の守り人」を編集作業中。UHD BDはマニア視点では「欲しい」が、監督視点で見ると膨大な情報量を処理するのにものすごく時間がかかる、現場泣かせのメディアと語る。しかしその分だけ絵作りの追及が可能で、特に役者の“目の芝居”に差が出るのだという。フォーカスの合った目には役者の感情が入り、例え旧作のフィルムであってもそういったものは掘り起こせるという。

 「ラ・ラ・ランドは、劇場で8回くらい見ているんですが、金魚みたいに大きなエマ・ストーンの目玉を見ると、芝居か本当か分からないその姿の、ココロをさらけ出す様子が分かります。高画質ならば『役者はここまで芝居をしていたのか!』と驚かされるところまで“見える”んです。これは新作に限らず旧作にもいえること。4Kは風景が良いという人もいますが、それよりも役者の顔の芝居。情報量が多いとこんなに違って見えるものかと感じさせられます」(樋口監督)

樋口監督は成城のスタジオにシアターシステムを構えているという、筋金入りのAVファン。「映画館でやっているものを好きな時間に好きな格好で見られる」ということを目指し、収入の多くをソフトやハードにつぎ込んできたそうだ
かつてのVHSセルソフトではサイドがカットされていることが不満で「『スターウォーズ ジェダイの復讐』のワイドスクリーン版を見たくてLDを導入した」と思い出を語った樋口監督。麻倉氏は「『サウンド・オブ・ミュージック』のドレミの歌では、最後のシーンで本当は7人のはずのトラップ兄弟がVHSでは5人だった」と返答すると、「あるある」と返した樋口監督に対して、堀田さんは驚いた様子だった

 トークセッションに先立ち、麻倉氏はUHD BDの概要を解説。海外で4Kを示す“Ultra HD”という言葉から、解像度が偏重的にクローズアップされがちな新メディアに対して「UHD BDのスゴさは全ての画質要素が最新バーションになったこと」とその利点を指摘した。明暗差の拡張技術であるハイダイナミックレンジ(HDR)や、広色域規格のBT.2020といったキーワードを提示し、「画質が総合的に引き上げられた」と話す。

 「電子映像は文字通り『イロハの“イ”』を伝送する高柳健次郎先生のテレビジョン実験に始まり、100年かけて“人間が感じるそのままの色と光の再現”というところまで辿り着きました。2Kが4Kになったことがよく言われるUHD BDですが、そのスゴさは全ての画質要素が最新バーションになったことです。Blu-ray Discでは100nitsだった輝度はHDRの導入で10000nitsになり、色の範囲もBDのBT.709からBT.2020という人の目が受け取る色をほぼ再現できる規格になりました」(麻倉氏)

 さらに麻倉氏はインターネット動画配信サービスとのデータ量比較にも言及。各社の4K動画配信が「最大でも10数Mbps」で提供されているのに対して、UHD BDの最大ビットレートは108Mbpsであることから、高画質メディアとしては文字通り「桁が違う」とした。

 「通信の高速化によってネット動画はもはや当たり前、パッケージと配信で同じタイトルが視聴できる時代になっています。しかしUHD BDと配信を比べると、その画質はまったくの別物。最近ではテレビの大画面化が進行していますが、画質の差は画面が大きくなればなるほど目に付くものです。それに相応しい画質を提供してくれるのがUHD BDというメディアなのです」(麻倉氏)

麻倉氏。動画配信サービスと比較するとUHD BDの情報量は圧倒的に多いと指摘する

 ステージに用意された2台の4Kテレビを使ってBDとUHD BDの比較試聴を始めた麻倉氏。映画は、ゲストの2人もよく知っているロバート・ゼメキス監督作品「マリアンヌ」だ。ドイツ将校が集まるカサブランカのクラブのシーンから比較を開始したところ、準備段階の一時停止の時点で堀田さんと樋口監督は「静止画の段階で(画質が)違う」と、驚嘆の声を上げた。そのようなゲストの2人に対して、暗いレンガの模様や明るいシャンデリアの色といったポイントを指摘する麻倉氏。「暗いところから明るいところまでつぶれず、ハッキリ出るでしょう」と、HDRの特長を解説した。「BDでも十分にスゴイと思っていたけど、こう視比べてみるとUHD BDは立体的というか、浮き出ているように見えます」(堀田さん)

 マリアンヌが窓を開けるシーンでは、“暗い室内と明るい窓の外”という、画質評価における定番の構図に。UHD BDでは役者をちゃんと映しながらも、外の風景に青空や緑といった色がキチンと乗っていることを麻倉氏が指摘すると、それを見た堀田さんは驚きを隠さなかった。一方の樋口監督も「いやスゴイですねこれは、ロケでこうなる? 合成じゃない?」と驚愕していた。「普通ロケだと露出が合わなくてこうはならないですね。カサブランカの街って日差しが強いじゃないですか、こういう無理な条件を収められるのがHDRのスゴイところですね」(樋口監督)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.