薄型テレビは“プレミアム家電”になれるのか?:本田雅一のIFA GPCリポート(2/2 ページ)
イタリアで開催されたIFAの「Global Press Conference」。4K2Kと並び、テレビの産業の立て直しに有効な手段として紹介されたのが、”プレミアム製品”という軸だ。
デロンギは、2013年にさらに静音化を達成したフルオートエスプレッソマシーンの「プリマドンナXS」やデザイン性の高い電気ケトルの「アイコナ」をリリースする。ブラウンのブランドでも、従来製品にプレミアム化を果たした製品を投入していく。
徹底したプレミアム路線はデロンギグループのCMO(最高マーケティング責任者)のマーク・ウェルチ氏によるものだ。彼らがプレミアムにフォーカスする理由は明快で、消費者はプレミアム性に対して、プラスアルファの価値を見いだし、製品を選び、より多くの対価を支払うからである。
確かにデロンギのように世界各国に販売網があり、しかし規模としては総合家電メーカーほどではない企業にとって、プレミアム戦略は良薬と言えるだろう。オーディオ&ビジュアルの世界では、ドイツの家電メーカー、ローヴェ(LOEWE・スペインのファッションメーカーとは異なる)がそれを実践している。ローヴェは本体だけでなく、リモコンなども含めたデザインや、ネットワーク連動機能など、システム全体のエレガントさを演出することでプレミアム性を引き出している。
もちろん、ローヴェと同様のAVジャンルで、日本メーカーが同じ戦略を取れるのか? というと疑問もある。例えば、ソニーはテレビに関して「数を追わない」と明言し、プレミアム路線へのシフトを目指している。しかし、プレミアムにシフトしようとすれば、販売ボリュームを失い、調達に影響するのは必然だろう。パナソニックのような総合家電メーカーともなれば、さらに難しい面もある。
自動車の場合、従前は大型の大排気量車ばかりにプレミアム性を与えて付加価値を高めてきたが、高級車に数段階のレイヤーでプレミアム性を持たせていくだけでなく、普段使いのコンパクトカーにもプレミアムなブランド、グレードを用意することで、”移動する道具”に対する対価に加え、”他人とは違う何か”に対して投資をしてもらう商品戦略が押し進められてきた。
一般論で言うならば、現代の薄型テレビを自動車と同じような考えでプレミアム化することは難しい。デジタル化が進み、フルHDが当たり前になって以降、テレビを差異化するためのポイントは極めて限られるようになったためめだ。アナログ時代ならば、信号処理回路やブラウン管の質で解像力をはじめ、表現力に違いが出た。デジタル化以降も、画質差は少なからず存在するが、スペック上は同じとなってしまう。もともとテレビは放送を映像として映し出す機能が主で、録画機能などを付加したとしても、あくまでプラスアルファの機能でしかない。
カンプ氏は「UHD、8Kと解像度を高めていき、同時に画面サイズを大きくしていかなければならない。また裸眼立体視やジェスチャーによる操作など、新たな技術への投資を怠らないことだ」と指摘し、さらに有機ELディスプレイなど新ディスプレイ技術への投資を加速すべきだと主張した。
もっとも、どのメーカーも簡単に新しいディスプレイ技術に移行できるならばすでにしているだろう。技術開発投資は継続的に行われてきた。その上での出口が見えない状況が、テレビという商材の難しい状況を示しているように思える。とはいえ「イノベーションこそが、業界を成長させるドライバーだ」というカンプ氏の指摘も正論ではある。イノベーションに挑戦し続け、その上でデザインや質感に配慮することでプレミアムなブランドを作り上げていくべきという点は、誰もが納得するところではあると思う。
テレビに限らず、幅広く商品ジャンルを捉えるならば、「プレミアム」というキーワードにはさまざまな可能性がある。世界的な不景気といわれる今、コストダウンを続ける中で何か商品としての魅力を失っている部分があるのでは? と自問しつつ、より高い顧客満足とは何かを考え直すべき時期なのかもしれない。
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