Bluetoothでもハイレゾに迫る音質 ――ソニー「MDR-1ABT」:ワイヤレスで行こう(3/3 ページ)
今回は、Bluetoothの技術をベースにした新コーデック「LDAC」を搭載し、“ワイヤレスでハイレゾに迫る音質”が楽しめるソニーのヘッドフォン「MDR-1ABT」を紹介しよう。無線接続時の干渉、接続方法による音質の違いなど気になる点をチェックしていく。
LDAC再生の実力から検証する
LDACとSBCによる音質の違いは、ボーカル系の楽曲を聴けば比較的よく見えやすいと思う。CDの音源を44.1kHz/16bit、WAV形式でリッピングしたMISIAの「Misia Greatest Hits」から『忘れない日々』を聴き比べた。SBCで44.1kHz/16bitのファイルを再生する際のビットレートとなる約328kbpsに対して、LDACの約330kbps/接続優先モードから試聴した。
SBCではざらついた感じに聴こえていた声の輪郭がきめ細かくなり、声の伸びや質感が自然な柔らかさを帯びてくる。高域の情報量が増えて、リップの動きや繊細な息づかいがかたちを表す。声の消え入り際もきれいでつややかだ。中低域の声の旋律にもふくよかさが増した。リズムセクションは分厚く、ビートに力強さが乗っている。SBCではボスボスっと空打ちして鳴っていたように聴こえたドラムスが、ズシンと低域が響くようになり、バンドの演奏がより安定する。打ち込みのリズムもビシッと歯切れ良く決まる。シンセサイザーのピアノの抑揚感は階調感の滑らかさと、ハーモニーの深みがいっそう心地良く聴こえる。
同じ曲でLDACの音質を3段階に切り替えながら比べてみた。「音質優先/約990kbps」と「接続優先/約330kbps」の、両端の音質を聴き比べるのが一番分かりやすいと思う。音質優先に切り替えると、LDACとSBCほどの差ではないものの、ボーカルがより前に出て浮き彫りになるような感触がある。声のディティールが鮮明になり、イキイキとしてくるようなイメージだ。質感はよりシルキーになるが濃度が深まる感じではなく、さらに透明度が増して清涼感がアップする感じに近い。パーカッションの高域は音の粒がキラキラとしてきて、抜けも良くなる。接続優先モードのドラムスは高域が何となくざらっとした質感で、長く聴いていると疲れてきそうだが、音質優先に変えると音のつながり感が増して、楽器ごとに違った音色のテクスチャーが蘇ってくる。コーラスやバンドの楽器も分離感が高まって、立体的な見晴らしが良くなる。音質優先モードで聴くと、演奏のリアリティに深みが増すところに大きな効果があるように思う。それぞれの違いが見えてきたところで、中間の「標準/約660kbps」をチェックしてみると、接続優先モードから段階的に990kbpsに全ての要素が要素に近付きながら高音質化するのが分かる。
有線接続によるハイレゾ再生と聴き比べてみた
ハイレゾの楽曲はLDACの設定から「音質優先」を選び、ケーブルをつないだ状態で有線リスニングと比較した。楽曲はミロシュ・カルダグリッチのアルバム「Latino Gold」から『Barrios Mangore: Un Sueno en la Floresta』(96kHz/24bit、FLAC)を聴いた。なお、「MDR-1ABT」の高域再生の上限は、LDAC再生時は最大4万Hzまでとなるが、ケーブルを接続した状態でのワイヤード再生時には10万Hzまでカバーする。
比較試聴してみても、LDACのワイヤレス再生に粗さは感じられない。トレモロの高域は粒立ちが良く煌びやか。音に生気がみなぎっている。厚みがあって、引き締まった音色だ。LDACのダイナミックレンジも十分に広く、ピアニッシモの音符の動きも丁寧に拾い上げる。休符とのメリハリもキリッとしていて、透明な空気感まで漂ってくるようだ。奥行き感の表情は有線接続によるハイレゾ再生に比べると若干平坦に感じられるところもあるが、底力で演奏の細部を立体的に引き出してくるエネルギー感はLDACも引けをとらない。
LDACによるリズムの正確さと力強さを確かめるために、マイケル・ジャクソンのアルバム「XSCAPE」から『Slave To The Rythm』(96kHz/24bit、FLAC)も聴いてみた。有線接続によるハイレゾ再生に比べると、ほんのわずかに中低域のアタックの輪郭が曖昧(あいまい)になる印象はあるが、音を前に押し出してくる力強さは全く劣っていない。リズムのスピード感にも不足はない。低域のディティールを描く力もハイレゾに迫るものがある。ワイヤレスでこれだけの情報密度をしっかりと出せるヘッドフォン再生システムは今までなかったといえるだろう。
「MDR-1ABT」は、ワイヤレス音楽再生に抜群の力強さと鮮度を与えてくれるヘッドフォンだ。LDACによる高品位なワイヤレスオーディオ再生だけでなく、有線接続に切り替えればハイレゾ再生にもマルチに活躍する。既にハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤーを持っている人だけでなく、初めてのハイクラスなヘッドフォンを探している人にもおすすめしたい。これ1台を持っていれば、これからのハイレゾ時代を気持ち良く渡って行けそうだ。
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