目指したのは“目や耳をふさがないハンズフリー”――ソニーのコンセプトモデル「N」(2/2 ページ)
ソニーの新しい研究開発プログラム「Future Lab Program」から登場したコンセプトモデル「N」。この技術が活用されるようになれば、危険な“歩きスマホ”が減るかもしれない。
ウェアラブルの音は、両側面にあるスリットから出る。ここだけを聞くと“音漏れ”が気になるところだが、同社製サラウンドヘッドフォンなどでお馴染みのVPT(Virtualphones Technology)を活用し、音像を持ち上げることでユーザーの正面に定位。音量を絞っても聞き取りやすくする仕組みになっている。実際に体験してみたところ、音が下から聞こえるといった違和感もなく自然。それでいて、かなり近づかなければ聞き取れないほど音漏れも少なかった。
ユーザーの声を拾う音声認識も、複数のマイクを使うビームフォーミングとNR(ノイズリダクション)技術を駆使して周囲の環境に左右されにくい形に仕上げた。音声認識技術はクラウド上とローカル(端末内の処理)のハイブリッド処理として精度を向上。大きな声で話しかける必要はない。にも関わらず、耳を塞いでいないためから周囲の音も良く聞こえる。このあたりが大きなポイントだろう。
もう1つのイヤフォンは、さらに音漏れをなくすためのものだが、音響工学的に非常に面白い構造をしている。ドライバー(スピーカー)が入っているのは耳の下にある「SONY」ロゴの入った丸い部分で、耳穴の上にくる環状の部分ではない。ドライバーから出た音は、長い音導管を伝って輪の部分から出る仕組みだ。音質は信号処理で自然に聴けるレベルとなっていたが、わざわざ音響的に不利な構造にしたのも“耳をふさがない”ようにするためだ。
このほか、ウェアラブルにはカメラも内蔵しており、「写真とって」というと自動的に撮影を行う。カメラ部は角度調節も可能で、ユーザーの視界に近い写真を撮影できるのがメリットになるが、一方でウェアラブル単体では撮影した画像を確認することはできない(PCと接続して取り込む)。岡本氏も具体的な用途は語らず、「このカメラがどう使えるのか、世に問うてみたい」と話していた。
完成度も高いが、あくまでもコンセプトモデルの域は出ていない「N」。目的はハードウェアそのものを見せることではなく、“目や耳をふさがないハンズフリー”を実現するため、受動的なネットラジオサービスとそれを活用するための端末を提案することだった。Nがそのままの形で世の中に出るか、一部の技術が何か製品に採用されるのかも分からない。しかし、Nの技術が活用されるようになれば、危険な“歩きスマホ”は減るかもしれない。
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