なぜドルビービジョン対応製品が増えたのか?――CESリポート(後編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(6/6 ページ)
AV評論家・麻倉怜士氏によるCESリポート後編。今回はドルビービジョンにソニーの「Crystal LED Display」と超短焦点プロジェクター、HDMI 2.1、MQAの最新動向など盛りだくさん。さらに「ドルビーシネマ」体験リポート付き。映画館はここまで来た!
パナソニックに聞いたベルリンフィルとの提携の内訳
麻倉氏:オーディオ関連でもう1つ、今回のCESではテクニクスとベルリンフィルの提携がより具体的になりました。発表によるとベルリンフィルはパナソニックから単に4K機材の提供を受けるのですが、それだけではなくテクニクスの優秀なエンジニアを“トレーニー”(訓練を受ける側の人)としてベルリンフィル・メディアへ派遣するとのことです。つまり前回のIFAの際に取材をしたあのスタジオで、フランケさんの指導を受けながら、音のバランスやマイキングあるいはミキシングという、コンサートを再現するための具体的な音作りを学ぶということです。トレーニーは4月から2カ月間の予定で、その成果をテクニクスの音創りに反映します。このようにベルリンフィルが持っている音楽的な価値をどのようにテクニクスへ取り込むかということがハッキリしてきました。
テクニクスとベルリンフィルの協業について、その真意と目標を取材する麻倉氏。今回のプロジェクトが他のオーディオメーカーと大きく異なるのは、最終的に目指す場所が“スタジオ”ではなく“コンサートホール”という点
――ビジュアル関連では深い造詣を持っていたパナソニックですが、音楽の面でもその哲学が深化しそうな予感です。このプロジェクトは是非応援したいですね。
麻倉氏:オーディオメーカーは自分たちの感性に従って独自に音作りをしていくわけですが、それは再生側での1つのやり方であり、オーディオでここまでアーティストに寄り添うメーカーはなかなかありません。パナソニックは映像分野において、ハリウッドではカラーリストに色を聞き、それをテレビでどう再現しようかと試行錯誤してきました。今回のプロジェクトもこれと同じ発想で、ベルリンフィルが作っている音の特徴をデジタル信号の中からどのように取り出し、最終的にリプロダクションするかを狙っています。そしてこれをやろうとする場合、初めの音を知っているか否かが大きな違いとなるのです。初めを知らないと出てくる音は単なる想像にすぎませんが、初めを知っていると過不足を明確に指摘して補正することができます。そういう意味ではオーディオメーカーとしてこれまでのやり方にとらわれない新しいやり方です。これは凄く面白い動きなので私としても大きく期待したいです。
麻倉氏:CESとIFAとを比べると、「システムをいかにユーザーへ届けるか」というIFAなのに対して、CESは「新しいもの作りました」「最先端の魅力はこれだ!」という直球的な訴求が見られるという方向性の違いがよく見えました。OLEDやHDRなど、新たな映像の潮流がここから出てきて再定義され、それが横に広がっていく。そんな流れが今年もすごくあったと思います。
実は今年は、私の取材期間が例年より1日少なかったんです。いつもは会期中の3日か4日は取材に出向くところが、今年は会期中2日しか滞在せず、非常に忙しかった。でもその分だけ密度を上げて見ていると、表面的に“見えている”あるいは“見せている”部分から、その裏側にあるメーカー側の考えであるとか、時代の流れであるとか、世界観の変容がよく分かったと感じます。もちろん毎年このような収穫をしていますが、今年は今年でまた違ったものが得られたのではないかというところで、新年のCESを締めくくりたいと思います。さて、今年はどのような事件でわれわれを驚かせてくれるでしょうか。
関連キーワード
Dolby | Crystal LED Display | ソニー | プロジェクター | 8K | CES | HDMI | オーディオ | 麻倉怜士 | IFA | 有機EL | Alexa | HDMI 2.1 | MHL | Ultra HD Blu-ray | Amazon Echo | Dolby Atmos | Life Space UX
関連記事
- 世界で通用する4K/HDRドラマに、NHK「精霊の守り人」の挑戦――「mipTV2016」レポート(後編)
4K/8Kと並び、次世代の映像技術として注目を集めているHDR(ハイダイナミックレンジ)。映像業界のご意見番・麻倉怜士氏のmipTVリポート後編は、NHKが“世界で売れる4K”を目指して製作した「精霊の守り人」の話題を中心に世界のHDR動向を見ていこう。 - 曲面テレビはもう終わり?――IFAで見つけた“近未来”
今年のIFAでAV評論家の麻倉怜士氏はどのようなトレンドを見つけたのか。前回は有機ELテレビを取り上げたが、今回は8KやHDR、曲面ディスプレイといったテーマごとに映像機器の動向を読み解いていこう。麻倉氏ならではの業界ウラ話も……。 - 次世代映像技術の台風の目、HDRで“世界が変わる”
近年、画質向上のキーワードとして「HDR」(ハイ・ダイナミックレンジ)が注目されているが、そもそもHDRとは何だろうか。その効果、最新動向まで“画質の鬼”こと麻倉怜士氏に聞いた。 - HDRが映画を変える――2015 CES振り返り(後編)
DVDやBDへの進化では、解像度の向上以外のインパクトは小さかったが、HDRが導入される4K対応Blu-ray DiscやVoDでは、よりディレクターズ・インテンションに忠実な映像を見られる可能性が高いという。AV評論家・麻倉怜士氏に詳しく聞いた。 - 2018年に4K/8K実用放送を始める事業者がほぼ決定
総務省は、2018年に始まるBS右旋/左旋および東経110度CS左旋を使用した4K/8K実用放送に参入を希望していた11事業者を認定する方針を明らかにした。申請を行った11事業者に日本放送協会(NHK)を加えた12者。 - ソニー、微細なLEDを敷き詰めた自発光ディスプレイ「CLEDIS」を商品化――「Crystal LED Display」の技術がベース
ソニーは、極めて微細なLEDを用いる独自のディスプレイ技術「CLEDIS」(クレディス)を発表した。2012年のCESで参考展示した「Crystal LED Display」の技術をベースに開発したもの。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.