今さら聞けない、おサイフケータイの基礎知識(後編)(1/2 ページ)

» 2007年04月05日 00時00分 公開
[房野麻子,Business Media 誠]

 2004年夏にドコモ、翌2005年にはau、ボーダフォン(ソフトバンク)がFeliCaのサービス提供を開始。端末が増えるのに呼応して、おサイフケータイで利用できるサービスも着々と増えている。電子マネーの「Edy」やクレジットカードサービス「iD」「モバイルSuica」「GEOモバイル会員証」など、決済、交通乗車券、会員証といったサービスが広がり、2007年4月にはセブン&アイの電子マネー「nanacoモバイル」も新たに登場する。また、マクドナルドが導入を決めた「トルカ」、「auケータイクーポン」など、おサイフケータイならではの電子クーポンサービスも目が離せない。

4月下旬からはセブン&アイ系「nanaco」、イオン系「WAON」という流通系の独自電子マネーがスタートする。nanacoはおサイフケータイでも利用できるが、WAONはサービス当初はカードだけの提供となる

 「今さら聞けない、おサイフケータイの基礎知識」前編では、カードタイプFeliCaと、モバイルFeliCa(FeliCa機能を内蔵した携帯電話、通称「おサイフケータイ」)の基本機能についてまとめた。後編では、3キャリアのおサイフケータイで現在どのようなサービスが利用できるかについてまとめる。

 なお次ページでは、現在おサイフケータイで利用できるほとんどのサービスについて表にまとめた。より詳細な記述がある過去記事へのリンクも含めたので、参照してほしい。

基本的な部分は共通だが対応サービスにばらつきも

 おサイフケータイは、フェリカネットワークスがライセンス供与し、ソニーやルネサス、東芝などが製造しているモバイルFeliCa ICチップを、携帯電話に内蔵したものだ。この基本的な部分は、NTTドコモ、au、ソフトバンクモバイルの3キャリアとも共通している。

 日本では非接触ICチップといえばFeliCaが事実上の標準だが、実はFeliCaチップが普及しているのはアジアの一部地域でしかない。さらにおサイフケータイは日本国内のみの規格だったため、当時海外メーカー製の3G端末を多く出していたボーダフォン(現・ソフトバンクモバイル)は当初、FeliCaチップを埋め込んだモジュールを携帯端末に着脱できるような仕組みも考えていた※。しかし結果としてはNTTドコモ、auと同様に、取り外しができない形でFeliCaチップを内蔵した端末になった。

※なお現在は、欧米で主流の非接触IC「Mifare(マイフェア)」とFeliCaの両方を併せ持つ、“インターナショナルおサイフケータイ”規格の開発が進んでいるが、まだ実用化はされていない(3月7日の記事参照)
日本で主流のFeliCaと欧米で主流のMifareの両方が利用できるおサイフケータイ用ICチップの企画化が進められている

 ベースとなる技術・部品が共通しているため、NTTドコモのおサイフケータイ用に設置されてきたインフラは、auやソフトバンクの携帯電話でもそのまま利用可能だ。

 当初、全キャリアで確実に利用できるサービスとしてはプリペイド電子マネー「Edy」が最もポピュラーだった。おサイフケータイ端末にはすべてEdy用のアプリがプリインストールされ、初期設定するだけで利用できた。しかしドコモが自らブランド事業者となってクレジットサービス「iD」を開始したのをきっかけに、「QUICPay」や「スマートプラス」など、携帯電話を利用したクレジット決済サービスに注目が集まった。最近ではドコモのおサイフケータイにはiD(2006年10月の記事参照)、auやソフトバンクにはQUICPayというように(2006年9月の記事参照)、クレジット決済サービスのアプリがプリインストールされている。現在の最新モデルでは、Edyをプリインストールしているのはソフトバンクだけだ(2月9日の記事参照)

 また、依然としてすべてのサービスで、3キャリアの全おサイフケータイ端末が利用できるわけではない。問題となるケースは大きく分けて2つある。

 よくあるケースが“サービス事業者が一部キャリアにのみ対応アプリを提供している”というもの。各社のサービスを利用するには、FeliCaチップへの読み出し/書き込みを行う携帯用のアプリが必須となる。基本的な仕様は共通とはいえ、この携帯用アプリの仕様は各キャリアで異なる。

 サービス事業者側にしてみれば、3キャリア対応にするために、

  1. NTTドコモ向けJavaアプリ
  2. au向けBREWアプリ
  3. ソフトバンク向けJavaアプリ

と3種類の携帯アプリを用意しなくてはならない。開発負担が増加するため、例えば“ドコモ向けiアプリは提供するが、auやソフトバンク向けにはアプリを提供しない”というケースは今後も出てくるだろう。携帯向けアプリの開発や提供に慣れている事業者なら問題ないが、おサイフケータイの場合、提供するサービスは携帯とは関係ないことも多いだけに、3キャリア対応の実現は難しいと判断する場合もあるだろう。

 もう1つのケースが、各キャリアのアプリがあっても、サービス事業者が要求する仕様をハードウェア的に満たさないなどの理由で、サービスを利用できる端末と利用できない端末が出てくる、という場合だ。

 ハードウェア的に条件を満たさなかったケースとして初期の「モバイルSuica」がある。JR東日本では、携帯電話にSuicaを搭載するにあたり、「携帯の表と裏、両面でSuicaを読み取れるようにすること」を条件とした。しかしサービス開始当初、このハードウェア要件を満たさない端末が少なからずあった。モバイルSuicaのサービス開始前に発売されたおサイフケータイはほとんどが、さらに当時の最新機種だったNTTドコモ「D902i」もモバイルSuicaの非対応機種となった。またauの「W32S」はそのままではモバイルSuicaを利用できず、希望者はバージョンアップが必要という事態になった。それ以降の世代のおサイフケータイはほぼ全機種が対応してきているが、今後も同様の理由で“モバイルSuicaが使えないおサイフケータイ”が出てくる可能性は否定できない。

 ちなみに携帯電話にFeliCaを載せる際には、端末の発売前にFeliCa技術の開発元であるソニーが読み取り感度の検証を行っている。そのため極端に読み取り感度が悪いおサイフケータイ端末は市場に出回っていないが、JR東が求める“表裏両面で読み取れる”の基準は、ソニーが定める基準よりもさらに高いものだ。

おサイフケータイで使えるサービス

 さて、実際に各キャリアの各端末で、どのサービスが利用できるのだろうか。NTTドコモ、au、ソフトバンクいずれも、自社のおサイフケータイで利用できるサービスをまとめて掲載したサイトを公式メニュー内に持っているものの、すべてが網羅されているわけではないこともあり、分かりにくい。

 現在おサイフケータイで利用できる主なサービスについて、サービス名や概要、詳しい過去記事へのリンクなどを表にまとめた(次ページ)。

 多くのサービスは3キャリアすべてに対応してきているが、3キャリア全てに対応するには時間がかかる、とするサービス事業者もある。例えばKESAKAシステムは、まずドコモのおサイフケータイ向けにマンションの鍵を携帯で開閉できるサービスを提供(2005年7月の記事参照)。その後、2006年4月にボーダフォン(ソフトバンク)への対応を発表したが、au端末には未だ対応していない(2007年4月現在)。またソニーファイナンスの「eLIO」はドコモとauには対応しているが、ソフトバンクには未対応だ。

マルチリーダー/ライターの早期導入が求められる

 リーダー/ライター側の問題もある。2005年から2006年にかけて、iDを含め、FeliCaを使ったさまざまな決済方式が登場し、対応店舗を増やした。先行していた電子マネーの「Edy」「Suica」に続き、クレジット決済の「iD」「QUICPay」「スマートプラス/VISA TOUCH」が競う形となり、エンドユーザーや小売店を中心に「分かりにくい」「店頭に複数の端末を置くのは無理だ」といった批判の声が上がった。

 このような状況下で、コンビニエンスストア各社は「全方式に対応する」という方針を打ち出し、POS連動型のマルチリーダー/ライターの導入を発表。2006年後半からさまざまなメーカーから複数方式に対応したマルチリーダー/ライターが発表されている。POS連動のマルチリーダー/ライターとして初めて実際に稼働したのはiDとSuicaの共用リーダー/ライターだが(2月2日の記事参照)、今後はクレジット決済にも対応し、ユーザーが決済方法を自由に選べるようになることが求められる。

2月からジャスコ、イオンスーパーセンター、マックスバリュー、メガマート、カルフールなどに設置されている共用リーダー/ライター。NTTドコモとJR東日本が共同開発した。iD、Suicaに加え、4月下旬からはイオンの独自電子マネー「WAON」も利用できるようになる

おサイフケータイならではのサービス――注目される電子クーポン

 カードタイプFeliCaにはない、おサイフケータイならではの機能として電子クーポンや電子チケットといった機能がある。ドコモでは「トルカ」、auでは「auケータイクーポン」と呼ばれ、モバイルFeliCaの「三者間通信」機能を利用したものだ。ソフトバンクも同様のサービスの提供をボーダフォン時代に発表しているが、ドコモやauのような、はっきりしたサービス名称は告知されていない。

 三者間通信とは、リーダー/ライターからデータをFeliCaチップに送り、そこから携帯に働きかける(アプリを起動するなど)機能だ。三者とは、FeliCaチップ、携帯端末、リーダー/ライターを指す。三者間通信はモバイルFeliCaの特徴的な機能だが、トルカもauケータイクーポンも、まだあまり利用されていないのが現状だ。しかしマクドナルドがトルカの導入を決めるなど、注目度が上がっている。

 トルカを例に、電子クーポンサービスの仕組みを簡単に紹介しよう。

 トルカは、トルカ機能対応端末をFeliCaのリーダー/ライターにかざすと、クーポンや店舗案内などの情報が携帯電話に取り込めるサービス。トルカで取り込んだ情報は、端末内の“トルカ専用フォルダ”に書き込まれる。入手したトルカはメール添付や赤外線通信で、友達にあげることができる点もポイントだ。

 飲食店でクーポンや店舗案内を配信、イベント会場で商品広告やキャンペーン告知を配信、ゲームセンターでiアプリゲームと連動するといった使い方を想定しており、まさしく「電子チラシ」「電子クーポン」というイメージに近い(2005年11月の記事参照)

photo リーダー/ライターにかざして入手するほかにも、トルカにはさまざまな入手方法がある
実験的にトルカの配布を行っているタワーレコード渋谷店の例。トルカ専用リーダー/ライターを設置しているほか、レジでiDを使って決済を行ったときにも、おサイフケータイにトルカが入ってくる(2006年12月の記事参照)

 ドコモの903iシリーズからはトルカの仕様が拡張され、トルカに日時の制限や再配布不可指定などを付けられるようになった。店舗としても発行しやすく、利用履歴を確認したり利用状況を分析したりできるようになる(2006年10月の記事参照)

 

 おサイフケータイを使える場所は着実に増えているが、SuicaもEdyもカードユーザーの方がまだまだ圧倒的に多い。また、「おサイフケータイでクレジット」といううたい文句で登場したクレジット決済サービス「iD」にしても、三井住友カードがiD一体型のプラスチックカードを対応するなど(2006年9月の記事参照)、“携帯電話でなくてはできない”サービスはまだまだ少ないのが現状だ。通信機能や三者間通信など、モバイルFeliCaならではの機能を利用したサービスを広め、おサイフケータイならではのメリットを高めていくことが重要になってくるだろう。

Suica/モバイルSuicaとその他IC乗車券の関係

 三大都市圏で利用されているSuica/モバイルSuica、ICOCA、TOICA、PiTaPa、PASMOは、いずれもFeliCaを使ったICカード乗車券だ。SuicaはJR東日本、ICOCAはJR西日本、TOICAはJR東海、PiTaPaはスルッとKANSAI(近畿地方のJRを除く電車、地下鉄、バス事業者が加盟)、PASMOはパスモ(関東地方の私鉄、地下鉄、バス事業者が加盟)が提供している。2007年4月現在、この中でおサイフケータイ用アプリを提供しているのはSuicaだけだ。もちろんSuicaとモバイルSuicaは、交通や電子マネー利用ではオートチャージ機能を除き、同じように使える。

 上記5種類のIC乗車券はFeliCaという同じICカード技術を採用しており、日本鉄道サイバネティクス協議会が定めたサイバネ規格に準拠しているので、相互利用できるものもある。下の表にその関係をまとめた。

※1:2007年4月1日現在。JR東海ではTOICAについて、Suica、ICOCA、PiTaPaなどとの相互利用を検討中としている。※2:旧パスネット・バス連絡協議会。関東の私鉄・地下鉄・バス事業者が集まっている。※3:関西の交通事業者が加盟する団体。岡山地区、静岡県の交通事業者も一部参加している

 首都圏では、SuicaとPASMOは全く同じように利用できる。Suicaの「Suicaグリーン券」やPASMOの「バス利用特典サービス」といった独自機能も同様だ。

 しかし、その他の地域に関しては注意が必要だ。新潟・仙台のSuicaエリアではPASMOで電車に乗ることはできない。また、JR西日本のICOCAとスルッとKANSAIのPiTaPaが相互利用しているからといって、PiTaPaのエリアでSuicaで電車に乗ることはできない。逆に、PiTaPaでSuicaの改札を通ることもできない。


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