“携帯利用者の3人に1人はおサイフケータイ”の今、通信キャリアが成すべきこととは 神尾寿の時事日想:

» 2007年04月09日 02時05分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 4月4日、ソフトバンクモバイルが同社のおサイフケータイサービス「S! FeliCa」に対応する携帯電話の稼動数が、4月1日に300万台に達したと発表した(4月4日の記事参照)。同社は旧ボーダフォン時代の2005年9月からおサイフケータイ端末を投入。ソフトバンクによるボーダフォン買収で一時足踏みした時期もあったが、昨年後半にはおサイフケータイ端末の投入に再度積極的になった。今年の春商戦では販売主力モデルであるPANTONEケータイ「812SH」を筆頭に、多くのおサイフケータイ対応機を投入。稼働数300万台以上に乗せた。

 おサイフケータイで先行するドコモ、auも負けてはいない。

 ドコモは今年3月9日に同社のおサイフケータイ稼働数が約2000万台を超えたと発表(3月9日の記事参照)。同社はおサイフケータイの草分けであり、早期から主力であるハイエンドモデル「90xシリーズ」におサイフケータイ機能を標準搭載してきた。現在ではデザインやライフスタイル提案型のスタンダードモデル「70xシリーズ」にも幅広くおサイフケータイを展開している。業界1位のシェアと搭載ラインアップの多さが、ドコモのおサイフケータイ普及台数の多さに繋がった。

 auは今年3月13日に、おサイフケータイの稼働数が500万台を超えたと発表している(3月13日の記事参照)。同社は昨年の夏商戦向けラインアップで一時おサイフケータイ対応機の数を絞り込んだが、昨年の冬商戦と今年の春商戦ではおサイフケータイ対応に前向きになった。特に春商戦モデルであるW5xシリーズでは全10機種のラインアップのうち8機種がおサイフケータイ対応で、そのうち7機種がドコモの最新機種と同じ、新バージョンのモバイルFeliCaチップ搭載機だ。今後、auのおサイフケータイ対応機も急速に普及しそうである。

 携帯電話3社が発表したおサイフケータイ稼働台数を合わせた数は、約2800万台。しかしドコモとauは今年3月初め時点の数値であり、春商戦の主力モデルにおサイフケータイが多かったことから、現時点でのおサイフケータイ稼働数合計はさらに増えている。フェリカネットワークスによれば、2007年3月末の時点で、3キャリアを合わせたおサイフケータイの合計普及台数は約3000万台となっている。

 電気通信事業者協会(TCA)の発表では、今年3月末時点の携帯電話契約数は合計で約9600万台(4月6日の記事参照)。しかし、この中にはクルマや屋外機器用の通信モジュール、様々な専用通信端末の契約も入っているため、実際に“携帯電話”として稼働している数は、約9000万台強といったところだろう。

 気が付けばおサイフケータイは、「携帯電話全体の3分の1」まで普及したことになる。しかも、これらの端末は非接触ICとアプリケーション、通信サービスを組み合わせて、カード型のFeliCaに比べて拡張性と自由度の高いソリューションが利用できる。3000万という数が持つ、潜在的な可能性は非常に大きい。

「ユーザーインタフェースの改善」と「最初の1回」が重要

 おサイフケータイの普及台数は順調に増えた。しかし、その「規模」が実際のサービスやビジネスで額面どおりの大きな成果を上げているかというと、そうではないのが実情だ。おサイフケータイの利用率はドコモやauでも2割強といった状況であり、機能を死蔵したままのユーザーの方が多いのが現状である。おサイフケータイの普及は順調に進んでいるが、一方で「幅広いユーザー層での利用促進」はドコモ、au、ソフトバンクモバイルすべてに共通する大きな課題になっている。

 この利用促進において重要なポイントは、「ユーザーの不安を取り除くこと」(セキュリティ)と「使いやすくすること」(ユーザーインタフェースの改善)、そして「最初の1回の利用」を後押しすることだ。

 この中でセキュリティの課題は、ユーザーの認知・理解度不足が原因なので、業界全体で安全性を積極的に訴求していけば次第に解決していくだろう。しかし、ユーザーインタフェースの改善と、「最初の1回」の利用促進は、携帯電話キャリアが中心になって解決していかなければならない課題だ。

 まず、ユーザーインタフェースの改善だが、ここでの課題はおサイフケータイの各サービスを使う上で必要になる「FeliCaアプリ導入」と「初期設定」の難しさ・煩雑さにある。これらはおサイフケータイの拡張性と引き替えに生じたデメリットだが、一般ユーザーの利用促進において大きな課題であるのは間違いない。実際、一部のおサイフケータイ対応サービスの導入・初期設定は、筆者でさえ“うんざりする”ほど煩雑で分かりにくい。ユーザーインタフェースの抜本的改善は急務だ。例えば、おサイフケータイ全体でFeliCaアプリや初期設定時の基本UIや使用する用語を統一する、端末側に初心者にも使いやすいウィザード形式の導入支援ソフトを用意する、店頭のリーダー/ライターからおサイフケータイのアプリ導入・初期設定を支援する仕組みの導入など、ユーザーインタフェース改善のためにやるべきことは山ほどある。

 また、おサイフケータイは1度利用を始めると、9割以上のユーザーが使い続ける傾向にある。そのため「最初の1回」の利用経験をしてもらうことも重要だ。この課題を解決するには、初めてのユーザーが使いたくなるようなサービス・場所を用意する一方で、おサイフケータイを“すぐに使える”ようにしておく必要がある。ここでは「プリインストール(初期導入)型サービス/アプリ」と、ドコモの「トルカ」やauの「auケータイクーポン」のように端末のみで利用できる機能の活用が重要だ。

利用促進は「共通の課題」のはずだが……

 おサイフケータイの利用促進は各キャリアの「共通の課題」になっている。しかし、この課題の解決に対して、各キャリアが柔軟な姿勢で臨んでいるかというと、残念ながらそうは見えない。

 例えばFeliCaアプリのプリインストールでは、ドコモが「iD」、auが「QUICPay」といった具合に各社が推す決済サービスのアプリを端末にプリインストールするが、他の決済方式はユーザー自らがダウンロードしなければならないなど、キャリアの方針による温度差がある(参照記事1記事2記事3)。またiDに至っては、加盟店が急増しているにも関わらず、未だにauとソフトバンクモバイルが対応していない状況だ。

 しかし、当面の課題がおサイフケータイ全体の利用促進であることを考えれば、優先すべきはキャリアの思惑や事情ではなく、ユーザーの利便性と加盟店のメリットだろう。キャリアを問わず、おサイフケータイは「全国で使えるFeliCa決済サービス」すべてに対応し、アプリをプリインストールするくらいの柔軟かつ積極的な姿勢が欲しいところだ。

 また、利用促進の効果で注目されているおサイフケータイのクーポン機能でもキャリアごとの違いが普及のハードルになっている。この分野ではドコモの「トルカ」が機能の豊富さや対応事例の増加でリードしているが、この機能にauとソフトバンクモバイルは対応していない。一方、auはトルカとは異なる「auケータイクーポン」を用意している。

 トルカやauケータイクーポンなどキャリアが用意するクーポン機能は、対応するおサイフケータイを持っていれば、購入後そのままの状態ですぐに使える。アプリの導入や初期設定は必要ない。しかし、キャリアによってクーポンの方式が違えば、導入する店舗、利用するユーザーともに使いにくいものになってしまう。おサイフケータイの利用促進を鑑みれば、キャリアが端末機能として提供する「おサイフケータイクーポン」の仕様は全キャリア共通にしていくべきだろう。

 おサイフケータイは「数の上では」確かに普及した。携帯電話稼働総数の約3分の1、すでに3000万台という出荷台数は、市場の潜在力としては十分な数である。だが、その一方で、“おサイフケータイの利用促進”は各キャリアの思惑の違いや協力体制が整っていないことから、「課題解決」の糸口を掴み損ねている。利用促進の壁はなお厚く、それを乗り越えるには、共通の課題を共同で解決していく体制が不可欠だ。

 おサイフケータイを「壮大なる画餅」にしないためにも、キャリアを始めとする関係各社が、柔軟な姿勢で利用促進に取り組む必要がある。

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