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» 2007年04月13日 09時45分 公開

“クルマのソフトウェア化”に布石を打つトヨタ 神尾寿の時事日想:

「G-BOOK mX」で、カーナビ地図のオンラインアップデートを実現したトヨタ自動車。これはトヨタが目指す、“クルマのソフトウェア化”への第1歩だ。

[神尾寿,ITmedia]

 4月10日、トヨタ自動車が新たなテレマティクスサービスとして「G-BOOK mX(ジーブックエムエックス)」を発表した(4月11日の記事参照)。トヨタは1997年に会員向け情報サービス「MONET」を開始して以降、テレマティクス分野に注力。2002年に「G-BOOK」、2005年に「G-BOOK ALPHA」、レクサス向けの「G-Link」を投入。特にレクサスではG-Linkを全車標準搭載にし、事故時の緊急通報システム「ヘルプネット」や遠隔監視・追跡型の盗難防止システム「G-セキュリティ」、有人コミュニケーターによるコンシェルジェサービス「オーナーズデスク」など、豊富なサービスを提供した。

 “安全・安心”を軸にしたトヨタのG-BOOK/G-Linkは、レクサスやクラウンの顧客層を中心に人気が高い。しかし、その一方で、20代〜30代の利用者層に高いニーズのあるカーナビゲーション連携のテレマティクスサービスでは、本田技研工業(ホンダ)の「インターナビ」が一歩リードしている。クルマのセンサー情報を通信経由で収集し、VICS以上の渋滞情報を収集する「フローティングカーシステム(ホンダ以外はプローブカーと呼称)」や、過去の渋滞情報データの解析から未来に発生する渋滞を予測する「渋滞予測システム」の実用化ではホンダが先行した。

 今回発表された「G-BOOK mX」では、従来からの“安全・安心”分野での先行優位性はそのままに、弱点であったカーナビ連携機能を強化。同社独自の内蔵通信モジュール「DCM」搭載の利点を生かし、低コスト・高頻度で地図の差分更新を行う「マップオンデマンド」、リアルタイムでの情報収集を重視したプローブカーシステム「プローブコミュニケーション交通情報」をサービスの柱に据えた。特に前者のマップオンデマンドは世界初のサービスであり、トヨタマップマスターによる差分更新技術の開発とデジタル地図仕様の改良により実現。DCM搭載車では自動での地図アップデートにも対応した。

「クルマのソフトウェア化」に布石

 G-BOOK mXでトヨタは“地図のオンラインアップデート”を実現したが、これをトヨタのテレマティクス、そして同社の将来計画の中で俯瞰して見ると、今回の「マップオンデマンドの実現」が1つの布石であることが分かる。

 まず2005年に投入されたG-BOOK ALPHAにおいて、安全・安心とともに重視されていた要素技術が“デジタルコンテンツの著作権管理”であった。G-BOOK ALPHAには「G-DRM」というデジタル著作権技術が実装されており、その実用化第一弾という位置付けで、超流通型の音楽配信サービス「G-SOUND」が搭載されていた。

 筆者は2005年当時、G-BOOK計画のキーパーソンであるトヨタ自動車e-TOYOTA部の友山茂樹部長のインタビューや同氏とのパネルディスカッションを行ったが(参照リンク)、そこで語られたのが「将来的に重要なのはデジタル著作権管理」ということだ。友山氏はその頃から地図の差分更新の必要性も唱えており、それが今回のG-BOOK mXで実現したのだ。2005年当時に友山氏が語ったことの中には、未来への示唆も読み取れる。一部を引用しよう。

 「(配信されるのは)コンテンツだけではありません。例えばプリウスなどのハイブリッドカーでは、ハードウェアにも魅力がありますが、真の価値はガソリンエンジンとモーターを制御するソフトウェアにあります。こういったソフトウェアを安全に配信・更新する目的にも、将来、G-DRMは使えると考えています。

 将来、クルマの価値のうち価格比で80%がソフトウェアになったとき、そのソフトウェアを最新にしたりリモートで機能向上をするといった時に、安全にソフトウェアを配布・配信できるG-DRMが意味を持ってくると思います」

 トヨタ自動車は4月1日に自動車制御用の標準ソフト(OS)開発を行う「BR制御ソフトウェア開発室」を設置した(参照リンク)。これにより、すでに1000万行を超える自動車制御システムのソフトウェア開発効率を向上。コスト削減を図るとともに、安全性能と環境性能の向上を目指す。実現化目標は2015年だ。

 “クルマのソフトウェア化”が進めば、そのソフトウェアを書き換えるだけで性能向上ができるようになる。すでにプリウスのようなハイブリッドカーはもちろん、ガソリン車でも年次改良による制御ソフトウェアの変更で、燃費向上や乗り味の変化が起きる。クルマ購入後もオンラインアップデートで性能向上するクルマが実現すれば、消費者視点でも魅力的だろう。

 さらに自動車メーカー側に立てば、車両制御ソフトのオンラインアップデートは、ソフトウェアに起因するトラブルを販売後に「修正」できるメリットがある。すでにソフトウェア改修のためのリコールや品質改善サービスの実施件数が増えてきているが、オンラインアップデートが可能になれば、リコールや品質改善サービスのコストが削減できる。

 クルマのソフトウェア化は急速に進む。将来を見越せば、クルマ全体でソフトウェアのオンラインアップデートの必要性が増大するのは明らかだ。トヨタが今回のG-BOOK mXで「まずは地図から」通信を使った差分更新システムの実用化をしたことは、ノウハウの蓄積という点で重要な意味を持つだろう。

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