昨年夏、JR新宿駅のアルプス広場に登場した「SuiPo(スイポ)」という新しい交通広告をご存じだろうか(2006年7月の記事参照)。大きなポスターの脇に丸いSuicaリーダーが付いており、そこにSuicaやPASMOをかざすと、ポスターに関連する情報が携帯電話に入ってくるというものだ。モバイルSuicaはもちろん、カードタイプのSuica+携帯電話でも利用できる。
また駅貼りの固定タイプだけでなく、移動可能な小型タイプもある。固定タイプと同じくSuicaをかざすと情報を得られるものと、Suicaをかざすとルーレットが回せるものの2種類がある。
2006年7月31日に新宿駅で開始したSuiPoは、2007年春からJR山手線の6駅(渋谷、上野、池袋、東京、新橋、新宿)に拡大した。駅ナカのポスターにSuicaと携帯を組み合わせる狙いとは何だろうか? SuiPoを手がける、ジェイアール東日本企画交通媒体局媒体開発部の山本孝氏に話を聞いていく。
まず最初に、SuiPoとはどのようなものなのか簡単に説明しておこう。ポスターの横にSuicaリーダーが付いており、ここにSuicaまたはPASMOをかざすと、紐付けた携帯にポスターの内容に関連する情報が入ってくる。広告を出す企業は、ポスターの内容に加えて、希望する人には“+α”の情報を配信できるという仕組みだ。
ポスターは「セレクトパノラマ」という商品名で、B1判の10倍サイズのポスターを3駅同時に掲載するもの。3駅にSuiPoを掲載すると、1週間で420万円。SuiPoの機能(情報配信機能)を使わず、普通のポスターとして使う場合は1週間300万円かかる。
ユーザーは、興味があるポスターがSuiPoで貼られている場合、Suica/モバイルSuicaをかざすと、携帯にプレゼント情報やクーポン、キャンペーンなどが入ってくる。ただし初めてSuipoを使うときだけは登録が必要になる。1度登録してしまえば、あとはポスターの内容が変わっても、Suicaをかざすだけで情報が携帯に入ってくる。
モバイルSuicaであれば、登録用のSuicaリーダーに携帯をかざすとURLが表示されるので、そのページにアクセスして登録する。カードタイプのSuicaの場合は、QRコードを携帯で読み取る操作が必要だが、あとは同じ方法で登録できる。(2006年8月の記事参照)。
広告出稿企業に対してJR東日本企画は、タッチした人の数と性別・年齢のデータを、日別・時間帯別に提供する。なお広告主からユーザーに対して、情報のプッシュ配信は行わない。あくまでユーザーがSuicaをかざしたときだけ、情報が配信されるというのがポイントだ。
新宿駅で始まったSuiPoは、この春から渋谷、上野、池袋、東京、新橋、新宿の6駅に拡大した。4月2日から29日まで6駅拡大を記念して新規登録キャンペーンを行っていたこともあって、順調に登録者数を伸ばしている。
「4月25日現在、SuiPoの登録者は約8000人です。このうち2000人は、4月に入ってから(=6駅拡大&キャンペーン開始)の登録者です。現在、1日100人弱程度で順調に登録が増えています。また『登録したいが、やり方が分からないので教えてほしい』という問い合わせが増えており、興味を持ってもらっているという実感はあります」(山本氏)
登録ユーザーの内訳は男性が7割、女性が3割。世代別に見ると、10代が8%、20代が40%、30代が30%、40代が12%となっており、20代と30代だけで全体の7割を占める。「最も多いユーザーは、男性20代〜30代の会社員と思われます。携帯を使い慣れた20代・30代が多いですね。10代が少ないのは、(SuiPoを設置した)立地の要素が大きいと思います」
目を引くのは、モバイルSuicaユーザーの割合。登録者数の7割がカードタイプ、3割がモバイルSuicaとなっている。カードタイプSuicaの発行数の累計が4月初めに2000万を超えたのに対して、モバイルSuicaは43万人だ(モバイルSuicaは3月末の数字、4月10日の記事参照)。つまりモバイルSuicaユーザーはカードタイプSuicaユーザーの2%程度しかいないことを考えると、いかに高い数字か分かるだろう。「モバイルSuicaのユーザーは、Suicaを利用したサービスに敏感ということでしょう」(山本氏)
新宿駅に設置されている初代SuiPoでは、初回の登録に使うSuica登録機がSuiPoと離れて設置されていたこともあって分かりにくかったが、新宿以外の5駅では、SuiPoの横のリーダーでそのまま登録ができるようになった上、未登録のSuicaをかざすとすぐに登録用のQRコードが表示されるようになったので、直感的に登録できるようになっている。
広告出稿企業からの評判も上々だ。新宿駅に設置したSuiPoの稼働率は約70%(残り30%はポスターのみ掲示)。配信する情報は、企業サイトへ誘導するものが多いが、待受画面を配布したり、テレビCMで使っている曲を着メロにしてプレゼントするなど、携帯サイトとうまく組み合わせたプロモーションが増えてきている。またポスターの意匠の作り込みによって、Suicaをかざす数が如実に変わってくるため、企業側もだんだん“かざさせる”ポスター作りが上手になってきているという。
仕掛け方次第で効果が変わってくるSuiPoだが、山本氏が特に高い効果を感じると話すのが、イベントと組み合わせる使い方だ。
2006年夏、大塚製薬は「SOYJOY」の新フレーバーを発売した際に、SuiPoを利用したキャンペーンを行った。SOYJOYを大きく写し、フレーバー名が書かれた部分だけを隠したポスターをSuiPoに張り、Suicaをかざすと新フレーバーが何味か分かる仕掛けにした。また横にはルーレットタイプのSuiPo miniを設置。Suicaをかざしてルーレットを回すと、新商品のSOYJOYをもらえるというイベントを組み合わせたところ、行列が続き、大塚製薬が用意していた以上の製品サンプルが必要になったという。
また現在は、ポケモングッズの専門店「ポケモンセンタートウキョー店・ヨコハマ店」で、SuiPo miniを使ったキャンペーンを実施中だ(5月6日まで)。店舗でSuica(こども用SuicaやPASMOも可)を使って商品を購入すると、SuiPo miniを使ったミニゲーム「ポケモンスロット2007」に参加でき、ポケモングッズがもらえる。
山本氏が、今年の課題と話すのは「SuiPoのコストダウン&小型化」だ。「もっとさまざまなところにSuiPoを設置し、“定番化”していくのが今年度の目標です。今はセレクトパノラマしかないですが、もっと小型のポスターにもSuiPoの仕組みを付けたい。駅の至るところにリーダーを付けていくためには、小型化やコストダウンが必須です」
駅固定型のSuiPoを作るには、SuiPo用の光ファイバーを駅に引くところから始まり、駅の設置条件に合わせて機器のカスタマイズなども必要になる。1駅あたり1500万円程度のコストがかかっているという※。このように非常に重装備なインフラであること、またB1×10枚サイズのポスターを貼れる場所は駅の中にそうたくさんはないこともあり、現在のSuiPoは貼れる場所が限られている。6駅で展開されているSuiPoだが、現状は各駅で1カ所ずつしか設置されていない。新宿駅は3種類のポスターを貼れるが、ほかの5駅は1枚ずつだ。
記者もそうなのだが、SuiPoのリーダーを見るとなんとなく“かざしてみたい”気持ちになる。しかもJRを使う人であれば、SuicaやPASMOを持っている可能性は高いわけで、その意味でSuiPoは、定着すれば非常に面白い広告媒体になる可能性がある。また、自分から情報を“取りに行く”というところも、交通広告として新しいし、押しつけがましくないところも好ましい。
「SuiPoは、自分のアクションでほしい情報を取りに行ける、参加型のメディアです。これまで交通広告にインタラクティブなものはなかった。その点でとても可能性があると思っています。ITの世界は動きが速く、どんどんいろいろな技術が出てくるので、新たな価値を開拓できるのが面白い。動きが速い分、陳腐化も早いので大変ですが、この動きに広告もついていかないと、と思っています」(山本氏)
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