ネット証券4社(マネックス、イー・トレード、カブドットコム、松井)の2007年3月期の決算が出そろった。最後に発表した松井証券の決算は、他社と比べ厳しい結果となった。収益と利益いずれも対前年同期比で−20%以上、この結果を受け松井道夫社長は「私の決断ミスで、収益を悪化させた」と自ら否を認めた。
2006年度は同社にとって、“厄年”だったかもしれない。新興市場を中心に市場環境の悪化もあったが、手数料の引き下げという経営方針が収益を逼迫させた。もちろんこのまま黙っているわけはなく、投資信託の販売やコールセンターの充実、即時決済取引の導入を柱に巻き返しを図っていく構えだ。
純営業利益は対前年同期比−17.8%、当期純利益が−30.0%に落ち込んだ。その要因として他社と同じく、市場環境の悪化が大きく影響した。受入手数料が同−37%、委託売買代金は同−20%、ネット業界トップのイー・トレードは手数料は−21.1%だったものの、売買代金は約10%の増加するなど、売買代金に格差が見られた。
同社の配当利回りは4月26日現在で、2.65%と高水準だが、株価の割安性を測る指標PER(株価収益率)は17.3倍と、他のネット証券と比べても割安感がある。株価の低迷については「ひとえに僕の経営責任。マーケットから低く評価されるのは理由があるから」と株主に謝罪した。
2002年度からの手数料引き下げ率を見ると、最も下げているのが同社だが、市場のシェア向上には結びつかなかった。その結果が経常利益の数字に表れている。昨年は信用取引手数料の無料化に踏み切ったが、「結果的には顧客に迷惑をかけた」と言及。その結果、第2四半期と第3四半期には利益が低迷した。それまで1日平均1億円ほどの手数料収入があったものの、第2〜3四半期は3000万円台もあったという。利益が低迷したため「毎日、眠れなかった。僕の決断ミスで、収益を悪化させた」と振り返った。その後、第4四半期で手数料を元の価格に戻すと、利益が回復した。
個人の売買代金は減少したが、悲観的な考えではない。むしろネット証券にとっては、これからが「本番」のようだ。その要因として、団塊世代の取引に注目している。これまでの60歳以上の層は、PCを使いこなす人は少ない。だが団塊世代は会社でPC操作を叩き込まれた人も多く、株のネット取引についてもハードルが低いと見ている。
これまで同社では投資信託を扱っておらず、他社と比べ大きく遅れた。今後は団塊世代の退職金を囲い込もうと、投資信託に力を入れていく方針を示した。5月からは投信プロジェクトチームを立ち上げ、独自の商品と販売体制を構築していく構えだ。
手数料の引き下げ競争は終わり、今後は付加価値を高めることが重要だという。なかでもネット証券の課題として「コンプライアンス」の重要性を訴える。同社では現在300人の人員をコールセンターに配しているが、これを500人に増員し、サポートやアフターサービスを強化する方針だ。
さらに約定と受渡が同時にできる「即時決済取引」のシステム構築に着手しており、9月からサービスを開始する。まずは全ての東証銘柄を対象とし、システム投資を加速していく方針だ。こうした動きも付加価値を向上させるためのもので、第2フェーズの一環だという。新システムについては、勝算を見込んでおり「オセロで言えば、最後にカドを取って、全てをひっくり返すようなもの」。手数料引き下げで、惨敗を認めた同社にとっては、次の投資戦略が勝敗の分かれ目となりそうだ。
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