ポイントカードが小売業で急速に普及している。レジで「ポイントカードはお持ちですか」と、よく聞かれる人も多いだろう。企業側は収益の向上、顧客の囲い込みなどを狙って導入するが、マーケティングの戦略を練っているのだろうか。
ポイントカードを導入することで、消費者は本当にお店に足を運んでくれるのか。こうした疑問に対し、みずほ情報総研では「直接的な影響はない」と分析した。顧客と購買の情報が結びついたデータから「効果的なマーケティング戦略として活用ができる」という。データの有効活用を提案している同社コンサルティング部戦略コンサルティング室の剣持真マネージャーに話を聞いた。
まず最初に調査の内容を紹介しよう。
1980年代頃からクレジットカードのポイントサービスが始まり、その後、家電や航空会社などで急速にポイントカードが普及していった。小売業でも売上などを伸ばすため、ポイントカードを導入する店舗が増えていったが、お店に愛着を持つ「顧客ロイヤルティー」を向上させているのか。こんな疑問から剣持氏は調査を始めた。
聞き取りやアンケートによって、ポイントカードの役割を調査した。その結果、ポイントカードは間接的にロイヤルティーを高めているものの、直接的には顧客行動に影響を与えていないことが分かった。つまり一定の顧客満足度はあるが、「ポイントカードがあるから、あそこの店に行こう」という行動には結びついていないのだ。
また顧客満足度で見ても、ポイントカードの役割は最も低い結果となった。商品の品質やパッケージのデザイン、店舗の広さ、清潔感などを、顧客は重要視している。
それではポイントカードを導入しているお店は、無意味なことをしているのか。この質問に対して、剣持氏は否定している。単にポイントカードを導入するだけではなく、顧客と購買の情報が結びついたデータの分析に意味があるという。顧客の購買特徴を把握することで、お店側は様々な対応ができる。例えば売れ筋商品をどこに配置するか、といった問題にも対処できるという。また来店の頻度が減少している顧客には、サービス券などを提供することで、“お店離れ”を防止することもできる、と指摘する。
現時点では、データをマーケティング戦略として活用しているお店は少ないようだ。ポイントカードを導入するだけでは、顧客から“お得な店”で終わってしまう。そうではなく“大好きな店”になることが、今後のお店作りの鍵と見ている。
――スーパーでポイントカードを導入しても、消費者への影響力は少ないという調査結果が出たそうですが。
剣持氏「スーパーマーケットに対する消費者の意識は、大きく分けて3つある。商品やパッケージのデザインなどを満足する要素と他の店に乗りかえないスイッチング障壁要素(個人的な人間関係など)、近隣にお店があるといった立地要素がある。
この3つの意識とポイントカードの関係を見ると、意外な事実が明らかになった。ポイントカードが顧客を満足させる影響力は最も低かったのだ。ポイントカードよりも商品の充実や店舗の雰囲気などを、消費者は重視していた。ただ間接的な影響はあり、ポイントカードを持つことで、お店に対して好印象を抱くようになる。
調査結果によると、いくつかの満足を満たすことで、お店に足を運ぶということが分かった。スーパーという業態に限って言えば『このお店でなければならない』という思考は少ない。交通手段や近隣にあるなど立地の利便性が、顧客のお店選びになっているようだ」
――スーパーではポイントカードを導入しても効果は「ない」ということでしょうか。
「それは違う。ポイントカードを導入することで、顧客情報と購買情報が結びついたデータ(顧客ID付きPOSデータ)を入手できるメリットがある。これまでPOSデータからは、売れ筋商品や死に筋商品の情報が分かった。このPOSデータを顧客ID付きにすることで、顧客層の購買特徴や変化を把握することが可能となる。
だが多くのスーパーでは、データを効果的に使っていないのが現状だ。その中でも、あるスーパーでは顧客離れを防ぐための試みを行った。あまり来店しないお客を対象に、催しの招待券を送付したところ、カムバック率が平均9.4%と高い効果が得られた。
来店頻度が減少している顧客にサービスを提供したり、未然にお店離れを防止するなど、顧客ID付POSデータは効果的なマーケティング戦略として活用できる(2005年7月の記事参照)」
――ほかにポイントカードの活用方法はありますか。
「顧客を購入金額の高い順に分けられるデシル分析がある。購入金額を10段階に分類し、購入金額が上がってきている顧客は、どんな商品を購入しているか、などを分析する。そして、良く似たデータの顧客がいれば、同じ商品を勧めることができるのではないか。顧客の変化を早く知ることができ、それに対応することができる。多くの企業ではポイントシステムを導入するだけで満足しているケースが目立っている。莫大なデータとなるため、処理するのが精一杯で、分析するまで至っていないようだ。
また購買金額によって、ポイントの影響力が違うことが明らかなった。例えば購買頻度は少ない家電を見ると、買う金額が高いためポイントを貯めることが有効になってくる。一方のスーパーは購買頻度は高いが、1回の支払い金額は少ない。そのため消費者は、ポイントのメリットを感じることが少ないのだ。来店回数などに応じて、ポイントを還元するという試みも必要ではないか。そうすれば『もったいないから、あのスーパーに行こう』という行動になると思う。
さらにデータを分析すれば、商品の品揃えを充実させたり、定番売場の棚に何を陳列するかを改善したり、といった取り組みができる。ポイントによる値引きサービスでは“お得なお店”という印象はある。しかしデータを活用すれば、“お得なお店”から“大好きなお店”を作ることができると思う。今後の店舗作りにおいては、どのようにデータを分析するかが、成否の鍵を握るだろう」
――スーパーにとってポイントカード導入のメリット・デメリットは?
「効果は薄いというものの、ポイントを貯める顧客はいるので、次回の来店促進につながるというメリットがある。ポイントを貯めながら利用しない顧客から未償還利益が得られる。
一方、デメリットとして、償還されないポイントが財務リスクとなり、引当金の計上が必要となる。また、競合企業とのポイント合戦になる危険性がある。すでに競争は激化している。そのため顧客が値引き慣れしている傾向もあり、お得感を出しにくいのではないか。今の状況は“ポイント合戦”とも言える」
――顧客側から見て、ポイントカードのメリット・デメリットは何か。
「メリットとしては、ポイントを貯める喜びがあることと、たくさん貯めるとお得感が出てくることが挙げられる。
デメリットは、すぐに割引サービスを得られないこと。また割引幅が小さいことが多いので、“お得感”が得られない、と顧客が感じる傾向があるようだ」
――ポイントカードが急速に浸透しているが、今後の方向性をどう見ていますか。
「顧客の利便性を考えると、1枚のカードに集約したいはずだ。ポイントカードの利用者が多い航空業界のカードに統合が進むのではないか。例えばJALグループ系、ANAグループ系といったポイントカードになるかもしれない。またSuicaやPASMOといった電鉄系のカードにグループが生まれる可能性もあるだろう」
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