“投信におまかせ”が儲からない理由――投資のプロはどこにいる?

» 2007年06月19日 13時18分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

 昨年の相場低迷や、今年に入ってやけに目立つ粉飾事件を背景に、最近、「やっぱり投資はプロに任せておけばよいのでは?」という声をよく聞く。

 しかし実際には、良い会社を選ぶよりも、良い投資信託を選ぶほうが数段難しいと筆者は考えている。ただでさえ株式投資で利益を出すのは大変なのに、手数料を取る投資信託を買ってそこから利益を生み出すのは大変なことだ。

 一般に、“運用のプロ”とは生命保険会社などの機関投資家を指す。しかしその多くはローテーションで部署が変わる事業会社であり、運用担当といっても、必ずしも投資の経験や訓練を積んでいるわけではない。「いくら儲かったか」ではなく「正しく行動したか」というプロセスで評価される、サラリーマンファンドマネジャーも多い。

 このような“プロセス重視”の背景には、ファンドの報酬体系と、現在の機関投資家の規模に問題がある。

生保や証券会社のファンドマネージャーの報酬体系とは?

 まず報酬体系の問題だが、ファンドの報酬は、成功報酬と運用手数料で構成される。成功報酬は、得た利益の一定率をファンドの取り分とするもので、運用成果の10〜20%が標準だ。運用手数料は年間一律の手数料で、預けたお金の1〜5%が相場である。

 私たちの家計のお金は、現在、ほとんどが生保・年金等の機関投資家に集中しているため、彼らの運用額はとても大きい。元の運用額が大きいのだから、図体の大きなファンドを一生懸命運用して成果報酬を得るよりも、プロセスに則った運用をそつなく行い、運用規模を維持して、黙って毎年一定の手数料をもらえればいいと考えるのは当然だろう。

 よく言われる話に、「IBMからパソコンを買って訴えられることはない」というものがある(現在IBMはPCを売る会社ではなくなってしまったが)。報酬体系を考えれば「皆が知らない株を買ってばくちを打つよりも、皆が知っている株を買って損をしたほうが良い」というロジックが機関投資家にも成り立つのである。

 では運用が本職である証券会社はどうだろう。証券会社の担当者も投資のプロというよりはむしろ、企業が発行する株券を配るノルマを持った営業マンという性質が強い。これも証券会社の利益の構造が背景にある。証券会社の利益の源泉は、企業の株式発行にかかる手数料と投資家の売買手数料である。したがって、発行された株を頻繁に売買してもらうことが利益につながるのであって、投資家のリターンを上げるインセンティブは今は少ない(そうでない証券会社ももちろんある)。

 日本では、さわかみファンドなどが良心的な報酬体系で正統派な投資信託を行っているが、稀少な存在である(参照リンク)。ただ、このさわかみファンドも、資産が2500億を超え、投資先も350社(上場企業の10%弱)に達する勢いだ。どんなに優秀なファンドマネージャーでも、ファンドの規模が大きくなるにつれて運用成績は平凡にならざるを得ない。今後のファンド運用成績は市場平均(TOPIX、日経平均)と拮抗してくる可能性もあり、手数料を考えるならばインデックスファンドを買ったほうがいいということにもなりかねない。

投資のプロはどこにいる?

 では、投資のプロはどこにいるだろうか。当然ながらプロとは、プロセスではなく成果にコミットする人のことである。従って、成功報酬が高く、運用手数料が低いファンドということになる。しかしそのようなファンドは、個人投資家の小さなお金を扱わないものである。なぜならば、投資家とのコミュニケーションコスト(募集・フォロー)がかかり、その分、投資収益にマイナスの影響を与えるからである。

 最近では、ラップ口座(ラップは包むという意味)という仕組みも徐々に増えてきている。ラップ口座では、資産運用に関する様々なサービスを提供し、売買ごとではなく、「投資家から預かっている運用資産残高の何パーセント」という形で一括して手数料を徴収することが多い。国内では、大和証券や日興コーディアル証券、三菱UFJ信託(MUTB)などがサービスを提供している。

 ラップ口座は今後普及が進む可能性はあるが、まだある程度資産規模が大きい人向けである(平均3000万円)。またプロとはいっても失敗はする。損をしても手数料は取られるし、儲けた場合はさらに利益の数パーセントと税金が取られる。結局、人任せでは儲けるのも大変、ということだ。

 コストの低い成功報酬型運用の布石としては、マネックスなどが共同で行っている自動売買ロボット「カブロボ」などが面白いかもしれない(4月24日の記事参照)。これはコンテスト形式で、参加者がそれぞれ売買のロジックを出品し、自動売買の成績を競うものである。ちなみに、筆者たちも独自のロボットを出品していて、6月19日現在、2位と3位に入っている(参照リンク)

 しかし、どんなに優秀なロボットも未来永劫にお金を稼げるわけではない。いずれにしても私たち個人投資家が安心して手軽にお金を任せられるプロのファンドは少ないということがわかる。

財布を他人に渡していいのか?

 よく分からない中で、運用をしなければならない、だから誰かに任せたい――そう考える気持ちはよくわかる。しかしこれまでも本コラムで書いているように、筆者は、投資やお金については基本的に人任せにはできないものだ、というスタンスだ(5月15日の記事参照)

 なぜなら、お金は人生で最も大切な要素の一つだからである。健康や愛情と並んで、お金は、社会を生きていくうえでとても大切な要素であり、人に財布を預けては生きていけない。でも、人生はお金がすべてではない。お金以外にもやることは沢山ある。だからこそ、“効率的”に投資を学ぶ機会が必要な局面に来ているのではないだろうか?

 ちなみに筆者の主催するシェアーズでは、個人投資家向けに優良な投資教育教材を提供している。もし“効率的に投資を学ぶ”というコンセプトに共感された方は、サンプルを見ていただければ幸いだ。

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