連載
» 2007年07月10日 16時51分 公開

通信業界が売り上げアップするための次の一手とは?ロサンゼルスMBA留学日記

サービスの価格設定とは、安すぎてもだめ、高すぎてもだめで難しいもの。定額料金が定着し、厳しい料金競争が続く携帯電話ビジネスで、売り上げを上げるにはどうしたらいいか、考えてみよう。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 MBAのマーケティングでは、プライシング戦略も学ぶ。プライシング戦略とは自社の製品やサービスに、どんな値段(price)を付けるかを工夫するということだ。今回はこれについて見ていきたい。

 この分野ではいろいろ業界用語(Jargon)があるが、中身を聞いてみれば案外「なんだそんなことか」というようなものが多い。例えば「スキミングプライス」とは、同じコンテンツを最初は高く、後から安く売ること。人気がある書籍を最初はハードカバーで高く売り、後から文庫本で安く売る戦略などが該当する。

 「ロスリーダー」とは、多少損をしてもいいから目玉商品を用意して客を呼び、ほかの商品もたくさん買ってもらう戦略。小売店などで採用される作戦となる。このほかにも、いろいろと横文字の名前がついた“価格設定の妙”というべき作戦は存在する。

それではクイズの時間です

 さてここで、クイズを出したいと思う。

 まずは下の図をご覧いただきたい。あなたは製品1と製品2の、2種類の製品を販売している。顧客はAとBがいて、Aは「製品1なら9の値段で買ってもいいが、製品2には最大1の値段までしか払わない」Bは「製品1も2も、5の値段までなら買いたい」と思っている。

顧客AとBに製品1と2を販売しているイメージ図

 このとき「どのようなプライシング戦略をとれば売上を最大化できるだろうか?」というのが問題だ。

 以下に考え方のプロセスを書くが、答え自体はもう少し下のほうで書くこととする。

 まず、製品1に3の値段を、製品2に1の値段をつけたと仮定しよう。顧客AとBは、これは安いということで両方の製品を買ってくれるだろう。売上は3×2+1×2で、合計8となる。しかしこれはちょっと直感的に、値段を安く付けすぎた気がするだろう。特に製品1は、もっと高くていい印象をうける。

 ではもっと強気に、製品1に9の値段を、製品2に5の値段をつけたとするとどうだろうか。顧客Aは製品1だけ、顧客Bは製品2だけを購入する。売上は9+5で、合計14。だいぶ大きい数字になったが、まだ大きくできそうだ。

 ちょっと時間を使って考えれば分かるが、製品1に9の値段を付けて1人に売るより、5の値段を付けて2人に売ったほうが5×2=10で売上は大きくなる。そうすると、製品1を5の値段に設定するのが一番正しいのだろうか? 一方で製品2は、1の値段を付けて2人に売るより、5の値段を付けて1人に売ったほうがよさそうだ。そうすると、製品2の価格設定も5ということになるのだろうか?

それでは正解発表を……

 正解を発表する前に、正解の戦略を当てはめた時の売上を先に書いておこう。ズバリ「20」となる。

 「そんな大きくなるはずはない」と思われる方もいるだろう。しかしある方法をとれば、売上はここまで大きくできる。その方法とは、「バンドル」(抱き合わせ販売)だ。つまり、製品1と2をセットで販売し、「2つ合わせて10でどうだ」と値段を付けてしまえばいい。顧客AもBも、製品1+2の価格が10であれば満足して、購入するだろう。結果的に売上は10×2で、20となる。これが答えだ。

 もちろん、問題文では「ただしバンドル販売もアリとする」と、ひとことも言っていなかった。だから、ひっかけ問題だったというわけだ。

 バンドル販売というと、一般的に悪いイメージを持つユーザーも多いだろう。世間で認識されているバンドル販売の定義とは、「大事な製品にどうでもいい製品をくっつけて売ること」が多いからだ。例えばファミコンでは、人気ソフトに売れ残ったソフトを付けて“バンドル”販売するケースがあった。ソフトウェアの中には一見必要なさそうに見えるものも多いので、「こんなの抜きでいいからその分安くしてくれ」と憤るユーザーもいるだろう。

 実際に、人気がある商品に不人気な商品を組み合わせてバンドル販売するなど、悪質なケースでは独占禁止法違反になったりもする。ただ上記のクイズを見ればお分かりのとおり、バンドルという手法自体は販売側にとって興味深いものであり、正しく使えば売上を最大化できるツールであることは間違いない。

通信業界は、今こそ複数サービスをバンドル販売すべき?

 通信業界も、これまでいろいろなプライシング戦略が適用されてきた。ブロードバンド業界では、ダイアルアップの従量課金制から“つなぎ放題”の月額定額制へと課金システムが移行している。携帯業界でも同様にパケット料金の定額制から始まり、音声やデータ通信にも定額化の波が押し寄せてきている。さらに定額料金そのものも競争によって低価格化が進んでおり、「儲けが上がらない……」という事業者が出てくるかもしれない(6月20日の記事参照)

 しかしここは、バンドルの考え方を適用して売上アップを図るのも手だ。何と何を抱き合わせ販売するかだが、まずは固定網と移動体通信網をバンドルしてみよう。FMC(Fixed Mobile Convergence)の推進が急務なわけだから、両サービスを統合した上で新価格を提案していくのは自然な流れといえる。これは、多分どの事業者も目指していることだろう。

 さらに一歩進んで、コンテンツのレイヤーで抱き合わせ販売するのもいいだろう。CATVなどでいくつかの番組(コンテンツ)を「なんとかパック」として販売するケースがあるが、あれと同じことだ。着メロ、着うたなどのダウンロードコンテンツを、個別に選んで買うのでなく複数サービスセットにしてバンドル販売する。NTTドコモの「うた・ホーダイ」(4月23日の記事参照)なども、このコンセプトで説明できるだろう。

 ほかにも複数のオンラインゲームを「ゲームパッケージ」としてバンドル販売するとか、アバターサービスやブログ/SNSなどの「コミュニケーション・セット」を作るとか、あるいは電子コミック読み放題、いわば電脳マンガ喫茶ともいえる「電子コミック定額」をリリースするとか、アイデアはたくさん考えられる。当然ながら、中には「そんなの要らない」とユーザーから拒否されるサービスもあるだろう。しかし価格設定さえ適切であれば、市場に受け入れられるはずだ。

 もちろんバンドルが全て「良い」と言うつもりはない。ただ個人的に、通信業界は新たなプライシング戦略の構築を迫られている時期だと感じている。バンドルも含めて、いろいろなプライシングのアイデアを練る必要があるだろう。

3剃りで盛り上がるMBA

 第1回でもご紹介したとおり、MBAにはさまざまな経歴の人間が集まってきます。その中で、日本人には意外に思われるかも知れませんが軍隊出身の人間も多いです。

 軍人ですからさすが体力があり、そのうえ頭も良く、文武両道の学生が多くいます。米国ではウェストポイントに陸軍士官学校がありますが、「ウェストポイント出身です」というと社会的にはちょっとしたエリートだ、と判断されます。ちなみに歴史の教科書に出てくるマッカーサー元帥はウェストポイントを主席で卒業したそうです。

 米国以外でいうと韓国や台湾出身の生徒たちも、その多くが軍隊に居た経験があります。彼らには兵役義務があるからです(まれに兵役を免除されるケースもありますが、それについては後ほど紹介しましょう)。こうした生徒はさほど背も高くなく、実に優しそうな顔をしているのに、「オレは軍隊でテストの点がよかったから、ソルジャーじゃなくてオフィサー(士官)だったんだよ」などと話すわけですから、なんとも不思議な気持ちになります。

 日本には兵役義務はありませんから、軍隊生活がどうだったかピンときません。しかし聞いていると、やはり上下関係の厳しい社会であることは間違いなさそうです。髪型なども、当然ながら丸坊主。あるとき床屋の話になった時に、台湾人がこんな話をしていました。

 「軍隊時代は“3剃り”だったんだけどねー。バリカンであたまの正面から後ろに向けてジョリ、左側面をジョリ、右側面をジョリ、の3回で終了さ」。横からほかの学生が「そうそう! ところどころに剃り残しの毛がぴよーんと生えている」などと相づちを打っていたのが、印象的でした。


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