ドル安が続く背景に、ユーロの影藤田正美の時事日想

» 2007年12月03日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 サブプライム・ショックはなかなか終わりそうにない。このため、米FRB(連邦準備制度理事会)は12月11日に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)で、今夏以来3度目の利下げに踏み切る可能性が高い。これを受けて、株式市場は一定の落ち着きを取り戻している。もっともこの利下げで十分かどうかは、いまだに不透明なのだが、それよりもFRBにとって頭が痛いのはドルの値下がりだろう。

 日本から見ていると、ドルが安い(円が高い)のはよく分かるが、そのほかの通貨に対してドルがどうなっているのかはあまりピンとこない。しかしFRBによると主要通貨に対するドルの価値は、最近、史上最安値を記録したという。1973年を100として、ドルは現在73程度でしかない(参照リンク)。世界経済におけるドルの支配的地位は過去半世紀にわたって続いてきたが、それが終わるかもしれないという見方も強くなっている。

ドルに代わる国際通貨はユーロ

 こうなると一時的なドルの値下がりで輸出産業が圧迫されるという話ではない。日本の外貨準備高は9540億ドルで、そのほとんどがドルである(参照リンク)。ドルは1970年代後半と1980年代後半に危機があったが、それを乗り切ってきた。ただこれまではドルに代わる国際通貨がなかったために、最終的にはドルの国際通貨としての地位は保たれた。しかし現在は様相が異なる。なぜならユーロの存在があるからだ。

 もし世界各国がドル資産の保有比率を下げて、ユーロ資産に切り替えると、どうなるだろうか? ドルはそれこそ暴落するだけでなく、世界通貨としての支配的地位を明け渡すことになりかねない。ユーロはドルに対して最も値上がりしている通貨だ。2002年のころには1ユーロが86セントだったのに、現在では1ドル48セントもする。世界通貨の条件は広く流通し、為替取引が容易で、価値が安定していることだ。その意味で、ユーロはまさに準備通貨としてドルに代わりうる。

金利を引き下げればドル安を招く

 米大手証券会社のメリルリンチは、11月末にドル危機が起こる可能性が過去10年で最も高まっているというリポートを発表した。そのきっかけになるのは、各国中央銀行のドル離れ、サブプライム・ショックの深刻化などを指摘している。

 実際、湾岸諸国などはこれまでのように、自国通貨をドルへのリンク(自国の通貨を強い国の通貨と連動させること)を外そうとする動きがあるし、イランのアハマディネジャド大統領は「ドルの時代はもう終わった」と公言した(もっともこの発言には、経済的な理由以外の思惑があることは明白)。

 とはいえドルが下落傾向にあると、米国は国際収支の赤字をどう埋めるのかという問題に直面する。サブプライム・ショックに直面しているFRBは、金利を引き下げることで懸命に景気を支えようとしている。金利を引き下げれば、ドルの魅力はその分減ってしまう。それがさらにドル安を招くということになる。

 アフガニスタンやイラクで戦争を始め、その決着を付けられないブッシュ大統領は、2008年で任期切れだ。任期中に大きな外交的成果を上げられなかったため、最後の1年に向けて中東和平に急に力を入れ始めた。世界最強の権力者として、歴史に名を残すために誰も成し遂げられなかった中東和平を実現したいということだろう。しかしブッシュ大統領の希望的観測とは裏腹に、戦争によってドルの本格的危機を招いた大統領として、歴史に名を残す可能性のほうが高そうだ。

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