著者プロフィール:保田隆明
やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou
ドラッグストアのCFSとアインファーマシーズの経営統合提案が、CFSの大株主であるイオンが展開した反対運動によって頓挫した。具体的には経営統合の承認を求める株主総会で、イオンが「反対票を投じるよう」にほかの株主に働きかけ、委任状争奪戦で自身が保有する15%分の株式を含め43%の反対票を集め、勝利を収めた。CFS側は過半数の賛成票を集めたが、経営統合承認には株主総会で3分の2以上の賛成が必要とされていたため、あえなく敗北した。
今回の委任状争奪戦で驚いたことは、CFSの株式を保有する約6割の金融機関がイオン側に付き、「経営統合に反対」したことである。いや、むしろ当然の流れだったのかもしれない。今後のビジネスを考えれば金融機関側は、数多く存在するドラッグストアの1つでしかないCFSの味方をするより、国内有数の小売業であるイオンに付く方が旨みがあるからだ。
ただ、今まで国内で行われた敵対的買収や委任状争奪戦において、金融機関は比較的浪花節的な行為をとってきた。会社側の提案に賛成、決議への参加を棄権――少なくとも会社提案に反対することはあまりなかった。敵対的な行為を行っている側を応援すれば、金融機関が抱える顧客から、悪評を買う恐れがあるからだ。
しかし、今回は金融機関がイオン側に回り、会社側提案に反対をした。もしイオンがCFSに対して、敵対的買収を仕掛けていたらどうだったか? さすがの“イオン様”と言えども、金融機関は敵対的行為に加担することはできなかったであろう。イオンが経営統合を阻止するために敵対的買収を仕掛けず、委任状争奪戦で対応したことは戦術的に成功を収めた。
もし今後、イオンがCFSに敵対的買収をしかけたらどうなるか? 委任状争奪戦でイオン側に回った金融機関は、敵対的買収に反対するのが難しいのではないか。しかし金融機関以外の多くの株主は、イオンの敵対的買収を「支持する」のではないかと思われる。そう考えると、今回の委任状争奪戦は、イオンにとっては、敵対的買収を仕掛けてどれぐらいの株主を自陣に引き込めるかという、“踏み絵的”な要素もあったと思われる。
今後、イオンはCFSと交渉の場を持つことになる。もし決裂した場合は、敵対的買収を仕掛けることができるカードを手にすることになるだろう。ただ、一般消費者の味方である小売業者が、敵対的買収という野蛮な行為に出れば、買い物客の足が遠のくことも想像できる。従ってイオンにとって、この敵対的買収というカードは最終手段ではあるが、そのカードを切った時にどれぐらいの株主が賛成してくれそうかを把握できたことは大きな収穫であろう。
CFS側は株主総会後に、案件が成立しなかったことを発表するプレスリリースを出した。そのリリースの最後にこう書いてある。
「最後になりますが、当社株式を保有していただいている取引先さまには、本件統合に反対を表明されていたイオン株式会社とのお取引のある会社も多く、多大なご心労をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます」
CFSの株主でありながら、イオンと取引のあった企業にとっては、今回の委任状争奪戦は板挟みにあった格好だ。多くの企業が規模の大きいイオンに半ば強制的に従うしかなかったことを、プレスリリースであぶりだそうとしている。今回の委任状争奪戦は、取引先に株式を保有してもらうことのリスクや難しさをも露呈することとなった。「取引先」=「安定株主」=「経営陣の味方」と思われてきた。しかし資本の論理に従う機関投資家に株式を保有してもらうほうが、経営陣の主張する戦略を遂行できたかもしれない。
「自社にとっての理想的な株主構成とはなんぞや」を考えさせられる委任状争奪戦の結果となった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング