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» 2007年12月13日 00時19分 公開

グリコ株買い増しに“負けはない”――スティールパートナーズの作戦保田隆明の時事日想:

江崎グリコの株式を買い増したスティールパートナーズ。なぜグリコの株を買ったのか? グリコはどういった動きに出るのか? 根比べになれば「スティールに負けはない」と予測する。

[保田隆明,Business Media 誠]

 先日の日本経済新聞に「スティールパートナーズが江崎グリコの株式を買い増し、持分比率が16%弱にまでなった」という記事があった。今年の前半、スティールは明星食品の株式をうまく高値で売り抜けたため、同社が投資していたほかの銘柄(いわゆるスティール銘柄)の株価も高値で推移していた。しかし、ブルドックソースがスティールに対して敵対的買収防衛策を発動してから(別記事参照)、スティール銘柄は軒並み株価を下げていった。

 スティール対ブルドックの法廷闘争では、形の上ではスティールが負けた。同時期にスティールが仕掛けた天龍製鋸に対するTOB(株式公開買付)も、防衛策の発動はなかったものの失敗に終わっている。その後、スティールの積極的な活動が聞こえてくることはなかったが、日経新聞の記事は久しぶりにスティールの動向を伝えるものとなった。

将来の収益を狙って投資

 なぜスティールがグリコ株を好んで買うかというと、それはグリコが定番のお菓子商品を保有しているからだ。お菓子産業の売り上げは横ばいで、大きな成長は期待できないものの、大きな下落も考えにくい。

 売れるお菓子は二分化している。1つは定番・期間限定商品で、ポッキーやポスカム、ビスコなど、子供のころからおなじみにのラインアップが挙げられる。もう1つは新商品だ。この新商品をめぐるコンビニの棚の取り合いは激しく、売れないものはすぐに消え去ってしまう。

 お菓子メーカーにとっては、収益を安定させてくれる定番商品を確保しつつ、一大ヒットとなる新商品をいかに開発するかが重要となる。そういう観点で言えば、定番商品を持つグリコは、大それた新商品開発をしない限り、収益の安定が見込める。

 投資ファンドにとっては、将来の収益が予想できる企業は投資しやすい対象となる。収益が安定していれば、経営陣が敵対的買収防衛のために自社を買い取るMBO(Management Buyout)が実施しやすい。また安定した収益があれば、買収時に調達する借金を将来、確実に返済していくことが可能だ。これはスティールが好んで食品メーカーに投資をしてきたことと、同じロジックである。

 グリコの株価は、ブルドック事件までは1500円ほどで推移していたが、現時点では約20%減の1200円前後。スティールにすれば「ちょうどよい買い場が訪れた」と言えるかもしれない。

売却できるタイミングを“寝て待つ”

 スティールがファンドである限り、ただ買い増しを続けるわけにはいかず、いつかは株式を売却して換金化しなければならない。しかしブルドックの案件以降、スティールはきれいな形で換金ができていない。ブルドックの場合は、会社がスティールの保有株を買い取る形で換金したものの、法廷闘争で負けた。またスティールはサッポロビールに対して、「TOBを仕掛けたい」という通告をした。だが、サッポロからスティールに対して情報提供の依頼が続出し、TOBの通知をしてから半年以上経った先週になって、ようやくサッポロはスティールからのTOBに関して検討を始めた。

 このように手詰まり感の漂う2007年後半のスティールだったが、「なぜグリコ株を買い増すのか」という疑問が生じる。むしろ保有銘柄を市場で売却して、日本から撤退する可能性はないだろうか?

 結論から言えば、「後ろ向き選択肢はスティールにはない」。なぜならグリコ株の場合も、ブルドックソースの時と同様に、スティールにとって“負けはない戦い”だからだ。グリコにしてみると、スティールに株式を保有されていることは、気持ちが悪い。結局、スティールとグリコの根比べになるわけだが、リヒテンシュタイン代表は「スティールのファンドには、実質的に満期が存在しない」と言っている。つまり通常のファンドに比べ、スティールは長期戦で戦うことができるのだ。

 グリコも日々の経営では、スティールに株式を保有されても、特に問題はない。ただスティールは、グリコの望まない第三者に、株式を譲渡するかもしれない。そのリスクを避けるために、グリコはスティール排除の動きに出ざるを得ない。排除ということは、スティールに株式の売却機会を提供するということになる。当然、スティールは損をする価格での取引には応じられない。売却する時が来るということは、儲かるということであり、“スティールに負けはない”ということである。

 スティールにとっては、売却できるタイミングを“寝て待つ”だけだ。そして負けがなければ、買い増すというのがスティールのロジックとなる。2008年も企業にとって、スティールは依然不気味な存在になるだろう。

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