1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
本記事の前編や中編を通じて、海外老舗レストランの日本への誘致と運営において他の追随を許さない活躍を続ける小島由夫氏の軌跡をインタビュー形式で辿ってみた。後編では少々趣向を変えて、小島氏が構築してきた経営理念、戦略、システム/プロセス、組織能力などについて、戦略経営的に読み解いてみたい。
下表は、理念の構築力・実現力が高い企業、低い企業の特徴をまとめたものだ。あなたの会社は、どこにあてはまるだろうか?
社内の状態 | 理念の構築力が低い | 理念の構築力・実現力が高い |
---|---|---|
作用する力 | 遠心力(社内はバラバラ) | 求心力(一体感がある) |
最適志向単位 | 部分最適 (自分さえよければ……不正の温床に) |
全体最適 (全社戦略の実現のために!) |
社内情報共有化レベル | 低い(セクショナリズム横行) | 高い(風通しの良い組織) |
戦略実現力 | 低い | 高い |
マルハレストランシステムズの小島由夫社長の場合、大学卒業直後の大東通商時代に「心から楽しいと思えることをやりたい」という思いの中から出てきた「レストランビジネス」がミッションだった(参照記事)。以来、氏はずっとレストランビジネスを続けており、その点でまったくブレていない。
また「経営観」として、「楽しいこと・好きなことだけをするのは単なる趣味」であり、「楽しいこと・好きなことであって、しかもお客様の求めることをするのがビジネス」であるという、明確な視点が存在した点に注目したい。
仕事を通して、世の中に対し、どのような価値を創出してゆこうとしたのか。その基本理念は、「短期的なトレンドを追いかけることなく、グローバルなステークホルダーから長く評価され得るような、老舗感・本物感のあるレストランビジネスを展開すること」といえる。
氏が社長を務めるマルハレストランシステムズ、コカレストランジャパンなどが現在展開中のビジネスを見ても、いずれもこの基本理念に合致しており、ブレていないことが分かる。
小島氏のこうした「理念」の貫徹力は、氏がこれを「不変」の対象として捉えていることを示している。すなわち、社会経済環境がどのように変化したとしても決して「変えてはいけないこと」と認識して、堅持しているということだ。
本記事の前編や中編でも述べた通り、小島氏は、いかなる環境変化が起ころうとも「変えてはいけないこと(=不変)」と環境変化に即応して大胆に「変えるべきこと」(=革新)」の「識別能力」において卓越している。
さらに、「不変」の貫徹力と「革新」の実現力、いずれも傑出している。海外の老舗レストランとアライアンスを構築し、日本市場に誘致する際も、気候風土・顧客ニーズがまったく異なる以上、そのまま移植しても決してうまくは行かない。しかし、ただ日本流にアレンジしてしては、「〜“風”レストラン」になってしまい、氏が目指す「本物志向」のレストランにはなり得ない。
そこで「不変」と「革新」の適切な使い分けが必須となる。「コカレストラン」「マンゴツリー」「ニルヴァーナ」など、いずれのレストランにおいても、不変・革新のポイントは明確だった。だからこそ日本で支持されたのである。
「不変」貫徹力・低 | 「不変」貫徹力・高 | |
---|---|---|
「革新」実現力・高 | 迷走タイプ (食品表示偽装企業など不祥事が発覚する企業・多) |
卓越タイプ (変わらずかつ革新的であり続けるのは難しい。少数) |
「革新」実現力・低 | 存続困難タイプ (方向性が定まらず環境変化への対応力に欠ける。自滅への道) |
時代遅れタイプ (老舗ではあるが、客足が遠のいている。衰退への道) |
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