「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で目標に向かって邁進する人がいる。会社の中にいるから、1人ではできないことが可能になることもあるが、しかし組織の中だからこそ難しい面もある。
本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現するビジネスパーソンをインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。
ビートルズやローリング・ストーンズが常連客。若き日のマドンナがウエートレスとして働いていたという伝説の高級インド料理レストラン「ニルヴァーナニューヨーク」。この人気店を、東京で復活させた立役者が、マルハレストランシステムズ社長の小島由夫氏である。
しかし小島氏はもともと、インド料理よりもタイ料理のレストラン誘致で実績を重ねてきた人物だ。なぜニルヴァーナが東京で復活することになったのか、その経緯を追った前編に続き、中編では、若い頃から何を思い、何を目指して、どのように今日の立場を築いてきたのか。その道のりを辿っていこう。
→伝説のレストランは、なぜ東京で復活したのか――マルハレストランシステムズ・小島由夫氏(前編)
マルハレストランシステムズ社長の小島由夫氏は、これまで実にさまざまな海外の老舗レストランとアライアンスを構築し、日本に誘致して成功を収めてきた“業界のカリスマ経営者”である。
1952年生まれの小島氏は、小学校から大学まで成蹊に通うという恵まれた環境に育った。成蹊は裕福な家庭の子女が通う東京の私立学校として知られ、安倍晋三前首相の母校としても有名だ。「でもね、大学卒業にあたって、親が『もう面倒は見ないよ』って宣言しましてね。それからは全て自分でやらなくてはいけなくなってしまいましたよ(笑)」
1975年、マルハの親会社に当たる大東通商に入社する。社会に出て1年、2年と経つうちに、大企業のエリートとして人生を歩むことに違和感を覚え始めた。「自分が心から楽しいと思えることをやりたい、そのことに人生を賭けたいって感じたんですよ。自分が心から楽しいと思える仕事とは何か? それがレストランビジネスだったんです」
この夢の実現に向けての第1歩として、小島氏は、昼間は会社に通いながら、夜はレストランのウェイターを2年半務めた。こうした地道な努力を重ねる中、小島氏に大きなチャンスがめぐってくる。
1980年代前半、日本社会が「バブル経済期」に突入する直前の頃、社内ベンチャーに社長として出向、シーフードレストラン「マンボウズ」を表参道にオープンさせることになったのである。夢をぐっと手繰り寄せた瞬間だった。
「おかげさまで、店自体は大成功だったんです。でも、なにせイニシャルコストがかかり過ぎて、どうにも回収できなかったんです。もちろん、社内からも責められましたし。やはり、やる以上は儲からないとダメだ、楽しくないって痛感しました」
この時は、入社以来目をかけてもらっていた大先輩である中部慶次郎氏(大東通商からマルハに移り社長を歴任)のサポートを受けて、何とか乗り切った。
日本が「バブルの宴」に酔いしれている間に、いつしか社会経済の環境変化が進行していた。突然バブルがはじけ、日本は底なしの平成大不況へ――この劇的な時期に、小島氏に次なるチャンスがめぐってくる。ブラジルのシュラスコ料理レストラン「バッカーナ」の渋谷オープンである。
「マンボウズではイニシャルコストのかかり過ぎに苦しみましたが、今回は、店舗や設備はUCC上島珈琲さんが担当してくださいました。またご存知のようにシュラスコは、焼いた牛肉をお客様の前で切って出す料理ですから、コックの人件費も抑えられます。正直、これは儲かりましたね。私にとっての最初の成功です」
お客様に支持された要因は? 「バブル崩壊後の暗い時期に、ブラジル人の陽気さが人の心を明るくしたんだと思います。レストランなんですが、しまいには店内でダンスを踊り出すんですから、彼らは(笑)。
ちょうどJリーグが盛り上がりを見せた時期と重なって、ジーコ監督などサッカー関係者が頻繁に顔を出すようになったことも、人気に拍車をかけたのだと思います」。
暗い時代に明るさを求める顧客ニーズへの適合、サッカーJリーグ人気との相乗効果、低コスト構造など、環境変化を読み切った見事な戦略構築による成功だった。
「ただ、マルハなのだから、やはりシーフード(を出すレストラン)がよいということになりましてね」
中華以外のアジア料理にしよう。シーフードレストランを紹介してもらおう――そう考えた小島氏はタイに飛んだ。そしてここから、まったく新しいステージへと移行するのである。
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