社会人になって数年経つと、担当している事業部やプロジェクトの収益分析や将来予想を立てる仕事を担当する場面が出てきます。なかには経理部・財務部に所属して、会社全体の数字を把握するようなポジションに身を置く人も出てくることでしょう。
そして、「じゃ、まずはこれで現状を把握しておいて」なんて言われて最初に渡されるのが、決算書やプロジェクトの収支表です。そこで多くの若い社会人の人たちは「げげっ! こんなの大学の授業でも見たことないや」「ありゃ、まともに勉強しなかったから分からないなあ」と思って途方に暮れることになります。
読者である皆さんのナビゲート役となる、入社4年目の若手社員のヒロシはまさにそんな状況にあります。それは、4月から新たな事業部に配属されて、大きな仕事をするぞ、と意気込んでいた初日のことでした。
「君、もしかして決算書読んだことないの?」
先輩は哀れむような表情で聞いてきます。その顔は「決算書も読めないやつなんてうちの事業部には必要ないぜ」と言いたそう。
「あ〜あ、決算書も読めないオレってやっぱりダメ社員なのか」
そう思いながら、半ば諦め気味に書店に足を向けたヒロシ。パラパラといくつかの専門書をめくってみましたが、やっぱりどれも難しそう。ヒロシはこのままダメ社員で終わるのでしょうか?
実は、決算書は読めなくても大丈夫なのです。それでもコーポレート・ファイナンスは理解できるのです。まずはそこからお話ししましょう。
社会人にとって必ず習得すべきスキルは、「会計・英語・IT」の3つ、と言われています。特に会計と英語に関しては、次々と新たな本が発刊され、ベストセラーも多い分野です。
それは「この分野を理解したい」というニーズが高いことを証明すると同時に、今まで発刊されたどの本も、それらのニーズを十分に満たしていないことを示しています。会計、英語の本を購入するビジネスパーソンのほとんどは、2冊、3冊、場合によっては5冊以上も同じ分野の本を購入しています。つまりはどの本を読んでも難しくて理解できない、もしくは内容がつまらなくて途中で読むことを挫折してしまっているのです。しかし、「会計や英語はなんとかして習得しないといけない」という暗黙のプレッシャーによって、新たな本が出るたびに新たな投資をしてしまうのです。
でも、本当にそれらの知識を深く修得する必要があるのでしょうか? 誰もが完璧に会計の知識を修得していたら、会計のプロである会計士の人の仕事はどうなってしまうのでしょうか?
先に結論を言ってしまうと、会計士の仕事は「飛行機整備士」の仕事と同じです。整備士は飛行機の機体をチェックし、機体整備書を作成します。これに対して「会社の経営を考えること」はパイロットの仕事にたとえられるでしょう。パイロットは整備士が作った機体整備書を見て、「よし、今日はどうやって操縦しようかな」と考えます。つまり、「機体整備書を読むことそのもの」は仕事ではありません。
企業経営では、会計士が企業の収益・財務状況をチェックして決算書を作成します。そして経営者はそれを見て「よし、こういう経営戦略でいこう」と考えます。つまり、決算書を読むことそのものは仕事ではありません。実際、経営者は決算書の細かな点まで全てをいちいち確認しているわけではありません。
本連載の読者である皆さんは、企業で働く方が多いことと思います。皆さんの立場をたとえるならば、パイロットである経営者をサポートする「副操縦士」や「客室乗務員」というところになるでしょう。では、副操縦士・客室乗務員が機体整備書を完璧に読みこなせる必要があるでしょうか? それぞれの持ち場において必要となる最低限の知識さえあればいいはずです。企業経営でも社員がそれぞれの持ち場で与えられた仕事をこなすことで経営がうまく行きます。全員が決算書を完璧に読みこなす必要などないのです。
一般的に「士」のつく職業は士業(さむらいぎょう)と呼ばれ、専門性の高い職種です。国家試験や何らかの特別な基準をパスした人のみが関わることができる職業です。それら士業の職務内容に関して、門外漢は理解できなくて当然です。
しかし、巷には会計士の書いた決算書の解説書がたくさん存在します。そもそもどうして会計士の書いた解説書を読む必要があるのでしょうか? それは私たちが「ビジネスパーソンたるもの会計を理解し、決算書を読めるようにしておくべきだ」と“勝手に”思い込んでいるからにほかなりません。ビジネスの世界では会計の知識の「一部」は必要ですが、全てを知る必要はありません。本連載では「その必要最低限の知識とは何か」を示していきます。
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