第1回 決算書は読めなくても大丈夫保田先生! 600秒でファイナンスを教えてください(2/2 ページ)

» 2008年06月12日 10時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]
JMA Management Center Inc.
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会計が苦手なまま証券会社へ

 私がこんなことを言うのは、私自身が大学時代に会計関連の勉強が苦手で、授業ではことごとくそれらを避けてきた人間だからです。それでも「簿記ぐらいは知っておいたほうがいいな」と思い立って簿記の授業を選択しましたが、それすらも見事に落としてしまいました。

 新卒時の就職活動時においては、会計の知識が必要であろう金融機関の就職試験、面接はほとんど受けませんでした。それぐらい会計を忌み嫌っていた人間が、何を間違ったか企業の収益・財務分析を行う外資系証券会社に入社してしまったのです。

 証券会社の仕事では当然ながら会計の知識が必要となります。

 しかし、私の会計嫌いは変わることがありませんでした。そこで私が取った作戦は会計に関する必要最低限の知識だけをマスターし、後は周りの優秀な人に聞く、というものでした。

 幸いなことに外資系証券会社には公認会計士の資格を持ったような優秀な人がゴロゴロいます。そんな環境を活用しない手はありません。そしてこれが見事にうまく行きました。

 最初の数年間こそ、人事査定で「会計・ファイナンスの知識を習得すべき」と注意されましたが、ほかの自分が得意な分野を伸ばすことでプラスマイナスをゼロにし、仕事をこなすことができました。当時のクライアントは、私のことを会計が得意な人間だとは思わなくとも、貸借対照表も損益計算書も見たことがないまま証券会社に入社した人間、とは思わなかったことでしょう。

 そんな経験を持つ私が実感するのが、「会計士=飛行機整備士」論なのです。そんな私が書いた本連載は「会計が苦手」という人にも共感を持って読んでいただけるはずです。

 会計・決算書のほとんどの本に解説されている「借り方・貸し方」の概念ですら、企業の収益・財務分析ではさして重要なものではありません。さあ、過去に読んだ小難しい会計や決算書の本は忘れてください。会計は難解であり、決算書とは面倒なものなのです。そういうつまらないものは、高い報酬をもらっている会計士の先生に任せてしまいましょう。私たちは必要最低限のことだけを知るに留め、もっと重要なことのために時間を使いましょう。

決算書は身近なものから理解できる

 さて、「そもそも決算書ってなんだ」というと、それは「会社の状態をチェックするもの」です。「いくらの資産を持っていて」「いくらの売上や利益があるのか」を見るものです。細かく見れば「保有している設備や工場がどれぐらい古いものか」という情報や、「去年に比べて資産や収益が増えたのか」という情報までチェックすることができます。

 前に出てきた飛行機の機体整備書にもう一度登場してもらうと、飛行機整備士は機体の劣化状態・エンジンの寿命・計器類に故障がないかなど、飛行機の様々な点をチェックしていき、最後に機体整備書を作成します。前回のものと比べると機体がどの程度劣化したのか分かります。

 機体整備書も決算書も、ともに非常に重要な報告書ですが、いかんせん専門用語が多いのが問題です。機体整備書は多くの人の目に触れるものではありませんが、誰もが見る機会がある決算書の場合は、わざと難しい用語を用いることで会計士の仕事を難解に見せているのでは、とすら思ってしまいます。

 例えば、「買掛金」という決算用語があります。知ってしまえば何のことはない言葉ですが、初めてこの言葉を聞いて意味を理解できる人はほとんどいないはずです。でも、これは要するに「ツケ」のことなのです。ツケと聞けば、「あ、ドラマでよく聞く『ママ、今夜はツケでよろしく』のツケか」というように理解できます。

 買掛金と聞くとなにやら難しそうですが、「ツケ」であると分かれば、「なるほど、この会社は銀座のママにツケで3億円なのね」という具合に楽しみながら学ぶことができます。決算書の世界はとにかく堅苦しく遊び心が全くないので、難解かつ退屈になりがちなのです。

決算書は「利用する」ことが大事

 さて、会計と決算書に関する前置きはこれぐらいにしましょう。さもないと会計士の先生たちに怒られそうです。

 ただ、最後に1つだけ加えるならば、「決算書が読めても仕事のできない人」も存在します。そう、決算書が読めても仕事ができるとは限らない、というのが現実なのです。

 その理由は、決算書は「読む」ものではなく、「利用する」ものであり、利用できなければ仕事に生かせないからです。「読む」場合はすべてを理解する必要がありますが、重要なのは「利用する」ことであり、そのためには一部を理解していればOKなのです。

 皆さんが所有しているパソコン、携帯電話、そしてテレビには様々な機能がありますが、それらの全てを知っているのはマニアな人だけであり、大半の人は一部の機能を利用しているだけです。決算書でも同じです。一部を利用してビジネスに応用するのです。具体的にどのように利用するかですが、それは企業の経営戦略とコーポレート・ファイナンス戦略に生かすのです。

 ここでやっと本連載の主題であるコーポレート・ファイナンスのお出ましです。

 決算書をはじめとする「会計」と「財務」ともいわれるコーポレート・ファイナンスの一番大きな違いは、決算書の情報は「過去のもの」であり、一方のコーポレート・ファイナンスは、その過去の情報を基にして今後どういう戦略を立てていくかという「未来のもの」である、という点です。見ている時間軸が異なるのです。

 決算書は携帯電話の説明書のようなものです。機能についての解説はついていますが、携帯電話を「こういう風に使おう」という戦略は載っていません。女性をデートに誘う時であれば、メールも送れるし、電話をかけることもできます。しかし、どういう局面ではメールで、どういう場合は電話か、という説明まではありません。それは各自が相手の性格などを見定めて、戦略的に用いる機能を変えていく必要があるのです。

 決算書も同じです。収益性を上げる必要性があることは決算書で把握することができます。しかし、上げる方策についてまでは書かれていません。どの商品の売上を伸ばす・どの費用を削減する・そしてそれらの組み合わせと、数ある選択肢の中から局面に応じて経営者が自ら判断しなければならないのです。

 資金調達においても、借入金・株式発行による増資・資産売却など数ある選択肢のうちのどれを取るべきか、決算書の中にヒントはありますが、答えまでは書いてありません。

 ただ、この「決算書の中には将来の経営戦略立案のためのヒントがある」という点が企業にとっては重要です。ヒントがあるのに生かさないのはもったいないことです。したがって、ヒントを読み解くために必要最低限の決算書の知識と情報は必要、ということになります。

決算書とコーポレート・ファイナンスとの関係図

 なお決算書は、過去に打ち立てたコーポレート・ファイナンス戦略の結果として、会社がどういう状況になったのか、という成績表でもあります。

 「成績表を基に今後の作戦を考える」という行為、それは私たちが学生の頃から繰り返してきたことであり、成績表が決算書であれば、「夏期講習に通って集中講座を受ける」などの解決策がコーポレート・ファイナンスに該当します。

 →第2回 ファイナンスの全体像

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著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


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