松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」
地球温暖化問題を主要議題の1つとする洞爺湖サミットの開催が近い。再生可能エネルギーは、低炭素型社会※を構築するためのキーポイントであり、この時事日想でも木質バイオマス、ゴミを利用したコジェネレーション※※(電気と熱の併用)、太陽光発電などを取り上げてきた。
→家庭用燃料は灯油から木へ――ドイツで木質バイオマスが見直される理由
→ゴミビジネスが“熱い”理由――ミュンヘン環境メッセIFAT(後編)
日本では「再生可能エネルギー」の同義語として「新エネルギー」と書かれることもあるが、世界的にみるとこういった使われ方はしない。本題へ入る前にまず両者の違いを考えてみよう。
そもそも新エネルギーとは、コジェネレーション技術や燃料電池技術といった「革新的な発想や技術によって開発された新しい種類のエネルギー」を示す。この言葉を使うと昔から利用されてきたバイオマス、太陽熱、水力などがその枠からこぼれ落ちてしまうのが問題だ。
低炭素型社会構築のために求められているのは「温室効果ガスを排出しない」のはもちろん「枯渇することがなく、自然サイクルの中で繰り返し利用できる」エネルギーであり、これが石炭・天然ガス・石油・原子力と異なる再生可能エネルギーの本質だ。
こういった事情から、地球温暖化問題を議論する場面ではやはり「再生可能エネルギー」を使うのがふさわしい。
さて、本稿で取り上げる「水力」は風力と並ぶ最も古い動力源であり、3000年以上前に利用が始まったとされる。ドイツでも古くから製粉・製材・製鉄に使われ、20世紀に入って蒸気機関が普及するまでは、どこの川にもごく普通に水車が見られた。
テューリンゲン州の山里ツィーゲンリュックにはドイツでも珍しい水車博物館(Wasserkraftmuseum Ziegenruck、参照リンク)水車博物館がある。展示されている古い製材設備(写真参照)は鉄の歯車を使うタイプなので、おそらく田舎の小さな製材所で第二次世界大戦まで、ことによっては戦後も活躍していたのだろう。製材のスピードこそ違うが、ノコギリで板材を切り出す仕組みは現在の大規模製材所も変わりない。
昔ながらの水車のイメージは、下の写真のようなものだろうか。筆者の住むカールスルーエ市のドゥーラッハ自然愛好協会(Naturfreunde Durlach、参照リンク)が所有するこの水車は、直径7.5メートル、落差3.7メートルと、このタイプでは国内最大のものだ。
もともと、ドゥーラッハの水車は15世紀半ばに製粉用に作られたもので、その後は製材にも利用されていた。時代を経た1933年から1946年までは小水力(小型水力)発電に使われ、その後はしばらく休止し、1980年代の終わりに協会が復活させた。
歴史に詳しい方はお気付きと思うが、1933年から1946年という期間はちょうどナチスが政権を握り、第二次世界大戦が終わるまでの時代に重なる。ナチスドイツは新たな電源を確保しようと国策で小水力を整備し、最盛期には全国6万カ所に小水力発電設備があったという。
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