戦後しばらく、そういった施設の多くは経済的なメリットがないため休止していたが、1970年代の石油ショックとそれに続く環境保全運動をきっかけに見直しが進み、現在は全国に2万基程度あると推定されている。
ドゥーラッハの水車の電力はまず建屋(協会事務所とレストランが入居)で利用し、余った分は電力会社に売電している。節電効果と売電収入を合わせると年間の収益は約1万6000ユーロになるが、銀行から借りた資金を返すのに20年以上かかるため電力事業としての魅力は小さい。ただ、この水車はドゥーラッハ自然愛好協会のみならず地元のシンボルになっており、協会にとってはそのことだけでも存在意義は十分だ。
ドゥーラッハの水車は新しく作られたものだが、休止していた設備を修理して使用する場合もある。当然、新品の方が発電効率は高いが、例えば半世紀前に作られた設備も発電効率は数ポイントしか劣らない。価格差と発電効率差を天秤にかけると、昔の水車を修理して再利用する方がトータルでお得になることが多い。それにしても真茶色に錆付いた水車(写真参照)が再び動くようになるとは驚きだ。
修理が終われば、例えば右の写真のようになる。この小水力発電設備はカールスルーエ市エネルギー水道公社の所有で出力は40キロワット。年間の発電量(約20万キロワットアワー)は一般家庭約70軒分の年間電力消費量に相当する。
この水力発電施設の建設には建屋の改修、発電設備、取水用の堰(せき)の整備を含めて約50万ユーロかかっている。建設費用を年間の電力収入(約1万5000ユーロ)で単純に割ると約33年だが、取水口のゴミ処分費用や修繕費用が上乗せされるので、建設費用を回収するのに50年はかかる。水車の寿命は50年以上と言われるが、それでも経済的には割に合わない。
実際のところ、公社にとって最も大きな意義は「公社のイメージアップ」にある。たとえ投資が回収できなくても再生可能エネルギー開発に出資することは公社の責務であり、市民もそういった活動を期待している。
一般に小水力とは出力1メガワット(=1000キロワット)以下を指す。今回は、その中でも特に出力の小さい設備を紹介したが、実は50キロワット以下のクラスになると事業としての魅力はあまりない。しかし、小水力には「地元の自然を見つめ直すきっかけ」になったり「環境啓蒙教育に役立つ」といった副次的な役割が期待され、出力の小さいものはこちらの方がより重要と言えよう。
小水力発電設備がこの先どれだけ増えるかは不明だが、世界的なエネルギー価格高騰を受けて弾みが付くのは間違いない。大型発電所と比べれば文字通り「水滴」ほどの規模しかないが、仮に全国で4万基まで増えればドイツ全国の電力消費量の5%程度をカバーできる。これだけで低炭素型社会を構築できるという存在ではないが、他の再生可能エネルギーと併せれば十分大きな意味を持つ数字である。
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