“作る”と“食べる”がつながる、ながしま農園の野菜づくり郷好文の“うふふ”マーケティング・特別編(2/4 ページ)

» 2008年06月26日 22時11分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

 長島さんは農業高校から大学の農学科に進み、土壌菌を培養する農業科学も学んだ。そして、1995年からはドイツ(バイエルン州ミュンヘン)で農業研修、オランダでは花き栽培場で経験を積んだ。この経験によって「オレがやりたいこと」を目覚めさせ、野菜作りにこだわり抜く原点となった。彼は語り部だ。Cherryさんと筆者は、農園の傾斜地を段々と上りながら、長島さんの熱い想いと広範な知識に“開墾”されていった。

小さな斜面にも、収穫がありエコがある

 「“かやば”って分かりますか?」。農園の傾斜坂の途中で、長島さんは道向かいの緑に茂る山を指した。

 向かいの山には椎の木が広がっている。以前は“かやの木”が植えられ、“かや葺きの屋根”用に出荷されていた。やがてかや葺き屋根が作られなくなると、山は放置され椎の木が茂った。幹も枝も細く、材木にも使えない木々が群生する森となってしまったのだ。

斜面のふき(左)、向かいの山(右)

 一方、森の向かい側のながしま農園の斜面には“ふき”や“桜”が植えられ、それが土留めにもなっている。さくらんぼも収穫できる。里山保全にはいろいろな意見があるが、「人間が自然と関係を持つことも自然保護では大事」と長島さんは語る。小さな斜面を生かし、エコにつながる知恵を入れた結果が120品目の出荷につながったというわけだ。

おとり大根の知恵

 うっそうと雑草が生い茂る休耕地がある。これから土壌づくりをする畑だ。そこで長島さんは足元に転がるカサカサの枯れ草のサヤをつまんだ。大根のタネである。

おとり大根

 「大根のタネを“おとり”に使うんです」。けげんな顔をする私たちに説明してくれた。「植えた作物の根っこにこぶができるのが根こぶ病。大根は根こぶ病に感染するけれど、なぜか発症しない」。発症しない大根の特性を生かすのが「おとり大根」。大根を先に植えて土壌伝染病の根こぶ病菌を退治するのだ。

 土壌改良剤などに頼らず、作物が本来持つ力を利用するのは、長島さんの農薬や化学肥料の使用法にも通じる考え方。どちらも使用はギリギリで抑える。使い過ぎると成分が土中に染み込み、やがて地下水に流れて環境が悪化する。また、農薬の使い過ぎは土壌中の微生物を死滅させ、かえって病原菌を発生しやすくしてしまう。だから微生物菌と微生物菌を拮抗(きっこう)させて、土本来の力を引き出すのだ。

自然の力を利用するビニールハウス栽培

 坂を上るとビニールハウスがある。長島さんは指をさして数え始め、合計13種類の野菜を栽培していることが分かった。まさに“ジグソーパズル”である。

“冷暖房ナシ”のハウス

 「このビニールハウス、ほかのと何が違うか分かりますか?」

 多品種少量生産の畝がほかのハウスとは違うのはもちろんだ。今どき水耕栽培もしないところも違う。タンクに溜めた雨水(中水)を自然落下で使用しているのもほかと違う。だが最大の違いは“保温・保湿のための暖房機がない”ことだ。

 温暖な三浦半島の地の利を生かして暖房システムは導入せず、その代わりにビニール素材の被覆(ひふく)は蓄熱と太陽光透過率が優れた最先端のものを導入した。自然光での蓄熱効果を高め、重油は使わないという選択で、外身は最先端、中身は伝統的なやり方と言ってもいい。

 余談だが、長島さんは“野帳”にPDAを使う。野帳とはフィールドの記録ノートだが、120品目もの野菜を季節や栽培地をサイクルさせて植えるため、土層・水層・気層の状態も記録する必要がある。とても手書きではできないので、最初はPalm/Pilot(3Com)、次いでCLIE(ソニー)を使っていたが、ソニーの生産中止で困っている。筆者の知人にもブツブツ言うソニーフェチがいたっけ。

 よそとの違いは分かったが、なぜ長島さんはここまで多品種少量生産にこだわるのだろうか?

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