クモが走り、地価舞い上がる?――副都心線開業で、沿線価値は上がるのか大出裕之の「まちと住まいにまつわるコラム」(1/2 ページ)

» 2008年08月18日 07時00分 公開
[大出裕之,Business Media 誠]

「まちと住まいにまつわるコラム」とは?

「HOME'Sまちと住まいの研究室」編集長、大出裕之氏が“街とすまい”をテーマに執筆するコラム。気になるニュースや事柄、新商品や新サービスなどを取り上げ、住まいの専門家ならではの視点で語ります。

大出裕之(おおいでひろゆき):情報媒体や、PC・IT系メディアの編集を長年勤める。ついでにボランティアとして、東京商工会議所のプロジェクトXSHIBUYAを手伝い中。途中ネットベンチャーの起業などを経て、現在は住宅・不動産情報ポータルサイトHOME'Sにて、まちと住まいについてのWebメディアの運営や冊子の刊行などを行っている。「「HOME'Sまちと住まいの研究室」」編集長。


 『ゲド戦記』の舞台であるアースシーでは、主人公の大賢人ゲドを恨む悪役のクモがやってきて世界をかき乱していた。一方、現実世界の日本国の首都東京では、クモが走った線路が東京最後の地下鉄道という“お祭り”の舞台となり、不動産業界、鉄道業界、小売業界を巻き込んだ大騒ぎとなっている。

映画『交渉人 真下正義』の中で暴走する「クモE4-600」は、バッテリーを積んだ自走式。実はタカラトミーの「プラレール」にもなっている

 ここでいう“クモ”。これまた架空の世界の話で恐縮だが、ご存知の方も多いだろう。映画『交渉人 真下正義』に登場する、東京トランスポーテーションレールウェイ(TTR)の実験車両「クモE4-600」のことだ(参照記事)。フリーゲージトレインとして、線路の幅が異なる東京トランスポーテーションレールウェイ(東京メトロがモチーフ)と新東京鉄道(東京都交通局がモチーフ)の線路をまたぎ、脇線(営業路線以外の線路)を走り抜け、首都東京を縦横無尽に走り回ってパニックを引き起こす。

 おっと、前置きが長くなった。今回のお題は、映画の中でクモが走り回っていた※地下鉄、東京メトロ副都心線についてだ。

※映画の中でクモE4-600は、開業前の新線(現在の副都心線)の線路を走っていた

結構複雑、副都心線

 東京の新しい地下鉄は副都心線で最後、といわれている。つまり、計画はいろいろあるものの、副都心線以降、地下鉄新路線の開発許認可は下りていないということだ。

 ちなみに開発計画だけでいえば、有楽町線が延伸して押上方面まで伸びるとか、都営浅草線がJR東京駅に直結するとか、わくわくするような計画はあるのだが、これらはみな“新線”ではない、ということらしい。

 新たに掘った(掘ったと公表されている)新線である副都心線。埼玉県和光市の和光市駅から東京都渋谷区の渋谷駅を結ぶこの路線は、今年(2008年)の6月14日に開業したばかり。できたてほやほやの地下鉄である。和光市駅から小竹向原駅までは有楽町線と同じ線路と駅になっており、以前から開業していた有楽町線新線を通る。

 東武東上線や西武池袋線と直通運転しており、かつ、急行と通勤急行が運転される。結構複雑なので、たまにしか乗車しない人は戸惑うこともあるだろう。筆者も開業初日にしっかりと乗ってみたが、新宿三丁目駅で各駅停車に乗って渋谷へ向かったつもりがうっかり急行に乗ってしまい、副都心線初乗り体験はあっけなく1駅で終わった。

現在の終点、渋谷駅の案内
開業当日の副都心線の勇姿(左)。新宿3丁目駅の時刻表。新規路線で最初からこれだけ本数があるというのも副都心線の魅力の1つだろう(右)

 ちなみに副都心線にはホームドアが設置されている。調査によればホームドアがついている路線は概してユーザーの評価が高い(参照リンク)。これが南北線タイプのような二重扉タイプだとなおよい。

 現時点での終点である渋谷駅のデザインは、建築業界の巨匠、安藤忠雄氏の手によるものだ。「地中の宇宙船=地宙船」デザインのエントランスも目を引く。個人的な感想としては、これまで東京メトロが設計する駅は(例えば大阪市営地下鉄やニューヨークのメトロに比べると)窮屈で閉塞感があると感じていた。しかし副都心線の渋谷駅のデザインは、「東京メトロ&東急電鉄、よくやった」と褒めたくなるくらい優れている。

副都心線渋谷駅のデザインを手がけたのは安藤忠雄氏。地中の宇宙船をイメージしており、全容を示す模型(写真右)をホームで見ることができる

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