「HOME'Sまちと住まいの研究室」編集長、大出裕之氏が“街とすまい”をテーマに執筆するコラム。気になるニュースや事柄、新商品や新サービスなどを取り上げ、住まいの専門家ならではの視点で語ります。
大出裕之(おおいでひろゆき):情報媒体や、PC・IT系メディアの編集を長年勤める。ついでにボランティアとして、東京商工会議所のプロジェクトXSHIBUYAを手伝い中。途中ネットベンチャーの起業などを経て、現在は住宅・不動産情報ポータルサイトHOME'Sにて、まちと住まいについてのWebメディアの運営や冊子の刊行などを行っている。「「HOME'Sまちと住まいの研究室」」編集長。
デザインを通じた生活の質向上と産業の高度化を目的に1957年に創設されたグッドデザイン賞。その長い歴史から見ると、住宅・建築の分野は新参者。工業製品の延長として住宅設備・エクステリア部門に工業化住宅が入るようになったのは1991年からである。
住宅関連の応募・審査分野は年度によって変わるが、2008年は「戸建て住宅、集合住宅」として1つの領域で応募・審査されるようになった。住まいではない「オフィス・商業施設、生産施設」「公共施設・建築」「土木環境・都市計画・まちづくり」は別枠となっている。
ここ数年の傾向を見ると2005年に106件、2006年は101件、2007年には124件がグッドデザイン賞を受賞している。ただし、これは「戸建て住宅、集合住宅」にオフィスや公共施設も含めた合算だ。現在、「戸建て住宅、集合住宅」領域では150件が1次審査を通っているが、もちろん全部が受賞できるわけではない。
最終的に2008年度の受賞が発表されるのは10月8日。ちなみに経済産業大臣賞である金賞を、住宅系では2006年にコムデザインの「東京ハウス」が受賞、また2007年にはアスコットの賃貸集合住宅「STYIM(スタイム)」が受賞している。
8月22日〜24日にかけて東京ビッグサイトで開催された「GOOD DESIGN EXPO 2008」では、1次審査を通ったノミネート作品を見ることができた。そして、1次審査を通った中でも、さらに選りすぐりの住宅系5作品が公開プレゼンテーションを行った。今回の記事では、それらを紹介しつつ、“住まい”のデザイントレンドをお伝えしよう。
フレッグインターナショナルのFLEG Bird Parkは、目黒にある“高層賃貸では地面の感覚が感じられず物足りない人のため”の高級賃貸住宅。もともとあった林を、なるべく切らずに開発できないか? と考えて、その木々を残すぜいたくさも付加価値とした。
ちなみに2部屋以外すべてにトリの巣箱がついており、中には2階建ての“トリ集合住宅”もある。
住宅を建てるにあたって、既存の樹木を樹木医に診てもらったり、樹木を“測量”したのは前代未聞のこと。住宅業界の常識では基礎工事=根切りだが、この物件では“根生き”を考えて、測量会社に測量方法を新たに開発してもらったという。
立地と概観の奇抜さだけがウリなのではない。間取りは家具付きとなしを合わせて6タイプ用意されており、それぞれ高級賃貸住宅らしい前衛的なデザインが詰め込まれている。森の中のような風景が広がっていたり、水を張った庭があったり、壁一面に作りつけの書架が広がっていたりとさまざまだ。
審査委員から「こういったコンセプトを普通の人が楽しめるものも、今後企画してもらえるといいのでは」とコメントが出ると、同社では「計画中」と答えていた。
都市デザインシステム※は、2作品で公開プレゼンに登場した。同社は2005年〜2007年にかけていくつもの作品がグッドデザイン賞を受賞している常連だ。
「サトヤマヴィレッジ」は、北九州市の区画整理の一環として開発された学研都市「響きの」の中で実現された。全43区画、各80坪の一戸建て分譲地なのだが、注目の理由はその開発コンセプトにある。
“サトヤマ(里山)”とは人の生活と密接に結びついた場所にある自然空間(森林や田んぼ)のこと。サトヤマヴィレッジでは、街区の真ん中に里山を作り、その周囲に家を配置。里山では森林浴をしたりベンチやブランコを置いたり、バーベキューをしたりと自然を満喫できるようになっている。また本来なら正方形の整然とした区割りができるところ、わざと旗竿地※として、竿の部分を集約してコモンスペース化。塀を作れないようにしている。
コンセプトに基づいた建築制限と、実際に住み始めた後のコミュニティ運営方針が、サトヤマヴィレッジのキモであろう。
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