グレイスマナーの「ガーデンコート成城 UNITED CUBES」は、最も風変わりなコンセプトだと言っていいだろう。普通なら高級分譲マンションが建つであろう成城5丁目に、小さい一戸建て住宅が密集しているようなキューブ型の建物を散在させたのだ。
デザインは妹島和世建築設計事務所、妹島氏は現代日本を代表する建築家の1人だ。ちなみに氏がコラボユニット「SANAA」を組んでいる建築家の西沢立衝氏は、「森山邸」という住宅を2006年に発表したが、これも敷地内に建築物が散在するという意表をついたもので2006年のグッドデザイン賞を受賞した。ガーデンコート成城 UNITED CUBESを見たときに森山邸が脳裏にオーバーラップしたのは私だけだろうか。
分譲マンション(?)ということで4タイプから選ぶことができるが、下の図のように単純な構造ではない。地下1階タイプなどは、採光のための“光庭”と呼ぶものがある。住戸と住戸が入り組んでおり、どこまでが自分の家なのか分かりにくくなっている(共同敷地の部分もあったりしてさらに分かりにくい)。「離れ」があることも特色。コンペ当初案ではすべての住戸が離れ付きだったそうで、キーコンセプトと言ってもいいくらいだ。
この住まいのコンセプト、多くの人がすぐに理解できるようなものではなかったようで、ある審査委員からは、残念ながらその点で厳しい意見が出た。発表者からも「実際に建ってから理解された」というコメントが出ている。別の審査委員からは「コンサバな分譲マンションの世界で今後も提案性のあるプロジェクトを頑張ってほしい」と応援する声もあった。
ロハスをコンセプトにしたのは賃貸集合住宅「月光町アパートメント」。東急目黒線人気駅ランキングトップ(HOME'S調査)の武蔵小山駅が最寄りで、「林試の森公園」の隣という素晴らしい場所にこのアパートはある。
各部屋の基本は、大きなワンスペースを土間と透明玄関サッシが特徴づけるという構造。集合住宅内でのコミュニケーション、コミュニティを大切にする造りになっている。設計は前述のサトヤマヴィレッジと同じ都市デザインシステム。このコンセプトに共感できる人には最高のアパートになるだろう。
2006年に「木の家」を発表した無印良品が、新たに「窓の家」を発表した。カッターで切り取ったような窓を意識し、フチ(窓枠)がない“窓のないような窓”になっている。建築自体は施主が希望する地元工務店が作ることになり、構造計算なども個別。無印良品はコンセプトに沿った部材を供給するということのようだ。
コンセプトは、家の内側から暮らし方をデザインすること。窓は自由な大きさで自由な場所に開けることができる(家の構造に影響しない限りだろうが)。
これらの住宅を見て、審査委員たちはどんな感想を持ったのだろうか。総括コメントをまとめてみた。
ユニット長の難波和彦氏は「一戸建てや賃貸物件とは違い、分譲では面白いものがこれまで出ていなかったが、今回やっと出てきた」という。昨今の隠れたテーマは「都市の中に自然をどう入れるか、ではないか」と話した。
芦原太郎氏は、FLEG Bird Parkが面白い試みをしながら経営も成り立っていることや、サトヤマヴィレッジのルールづくりについて評価した。
高橋晶子氏は「標準解にバリエーションをつけて豊かにするのではなく、今回のようにキャラを立てる形でアプローチするほうが、ワクワクさせられる、ハッとさせられるものが出てくるのではないか」とコメント。
手塚由比氏は「売る、貸すといった経営の側面があると既成概念や暗黙に縛られがちだが、今回はそれぞれの作品が縛りから1歩踏み出せている」と話した。
現在のグッドデザイン賞のコンセプトのように、住まいといってもハードウェアだけではなく、そのコンセプトやルール作りを評価する流れになっているのは良いことだろう。供給側が顧客の顕在化しつつあるニーズをとらえられれば、このような特徴あるコンセプトの作品が花開くのではないだろうか。
なかでも自然、そしてコミュニティという要素は、グッドデザイン賞という頂上だけの話ではなく、より広がってきている感覚がある。審査委員のコメントにもあったが、時代のトレンドに合ったコンセプトが、さまざまな住居形態・価格帯で展開されれば面白いのではないか。エッジの立ったこれらの作品をサンプルとして、ユーザーの側からもきちんと選択できるよう、住まいについての興味や関心が高まってもらえたらと思う。
また、筆者はこのほど住まいの知識を体系的にまとめるプロジェクトを開始した。役に立ちそうな話にまとまった段階で、こちらでも詳しく報告していきたい。
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