金融危機で損をしたのは金持ち? それとも一般庶民?山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年10月16日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

 先週は、株価が日米ともに2割前後下げた。今や「リーマンショック」から一段進んで、「金融危機」という言葉が似つかわしいとも思える緊張感が漂う。日経平均株価は1日平均で500円以上も下げた計算になるが、こうした金融情勢が、個人の生活にどう影響するかと考えると、生活のあり方によってさまざまで、一様でない。

 先週の時事日想でも触れたように、テレビをはじめとする多くのメディアのインタビュー取材で「金融危機は私たちの生活にどのように影響しますか?」と質問されるのは、なかばお約束になっている。

 こうした質問に正確に答えようとすると、「所得階層別に影響は随分異なります」とでも断って説明するしかない。

 例えば富裕層の場合はどうかというと、たぶん、今回の金融危機でほかの階層よりも、かなり大きなダメージを受けているだろう。富裕層は株式や外貨建て資産などリスクを取った運用に回している資産が多い傾向にある。先週1週間に起こった最も大きな変化はたぶん株価の下落だろうから、彼らが一番大きな被害を受けているという見立てに、間違いはあるまい。

 また、多くの富裕層は高額な不動産の所有者でもある。不動産に関しては、2007年の夏にサブプライムローン問題が表面化して、外国人投資家の資金が日本から一斉に引き揚げたため、「不動産ミニバブル」的な状況が一変した。首都圏のオフィス物件の値下がりが著しいし、マンションも価格が下がった。今後も、資金繰りに苦しくなった業者の投げ売りが予想されるため、不動産市場の見通しは暗い。実際に売りに出さなければ不動産の損は見えにくいが、経済価値を考えると、富裕層は相当に損をした(かつ、しつつある)と言えるだろう。世界的な信用収縮の進行は、この状況をさらに悪化させる。

 もちろん「損」は気持ちのいいことではないが、富裕層には経済的な余力がある場合が多い。彼らが直ちに困るわけではないし、何よりも富裕層以外の大多数の人たちから同情を買うとは考えにくい。

階層別に異なる金融危機の影響とマスメディア

 人によって(職業や立場で)異なるが、今回の金融危機の「影響」を考えたときに、インタビューでは答えにくいのが、中間層への影響だ。内外の株価が下がるような状況の背後には、実体経済の悪化がみられるので、冬のボーナスが減るかもしれないとか、来年あたりは企業がリストラに走る可能性もあるといった説明は可能だ。収入の変化が少ない給与所得者の場合(会社員の多くや公務員)、先週1週間で起こった変化の影響を考えると、原油価格が大幅に下落しているし、円高にもなっているから、物価の下落傾向によってはかえって実質所得が増えるといえる。

 さらに欧州の銀行が、不動産関係の証券化商品による損失が大きくて弱体化していることと、急激に悪化が見える欧州景気を受けてユーロが対円でも下落しているため、これまで値上がり傾向だった欧州産のブランド品なども、今後、値下がりに転じる可能性が大きい。株価が下がって高額商品への購買意欲が落ちることが予想されるため、年末の買い物は、買い手にとって有利な状況になっている公算が大きい。

 公務員や大企業の社員、あるいはその配偶者などは、先週の状況で、かえって経済的なメリットを得たかもしれないのだ。

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