誠は慌てて星野にメールを書いたが、すぐに次のような無愛想な返信が戻ってきた。
星野メール 大変申し訳ありませんが、ただいま海外出張のため、すぐに返信できませんのでご容赦ください。星野
誠 げー、今どき海外出張先からでもメールくらい出せるんじゃないの。掟とか言ってて、師匠から肝心なことを聞くのを忘れてたよ。どうしよう……。そうだ、もしかして坂口だったら、あいつは開発部だから何か知ってるかもしれない。
さっそく坂口賢二の内線に電話を入れてみたところ、すぐに本人が出た。
坂口 おう、誠か。調査データなら朝のうちに山口君に送ったぞ。
誠 実はそのデータなんだけど、とりあえず集計までは終わったんだ。でもこの先どうやって分析するのかがよく分からなくてさ。肝心なときに師匠も出張とかで捕まらなくって。坂口ならパネル分析をやったことがあるかもしれないから電話したんだよ。
坂口 あのな、もし自分でやったことがあれば、とっくにみんなに説明してるって。……待てよ、以前ウチの主任が同じような分析をして発表してたな。誠、それって「コンジョイント分析」ともいうんだったよな?
誠 この間、師匠がそう言ってた。
坂口 それならおそらく主任が発表で使ったのと同じ分析方法だ。確かその統計処理ソフトも飲料開発部が持っていたと思うよ。残念ながら、今日は主任が不在だから、明日聞いてみて連絡するよ。
誠 ありがとう、坂口。恩に着るよ。
坂口 仲間なんだから、水臭いこと言うなって。じゃあ、明日。
誠 なんだかんだいっても、やっぱ一番頼りになるのは、自分たちのチームメンバーだな。僕の掟には4番目として「チームメンバーを信頼する」を追加しとこうっと。それから山口さんには返事を書いて、明日時間が取れたら坂口と一緒にデータを分析できるかを聞いてみよう。
先ほどは一瞬目の前が真っ暗になったこともすぐに忘れたかのように、運も味方に付けて前向きな気持ちでPCに向かった誠であった。(第10話へ続く)
「三人寄れば文殊の知恵」のことわざのとおり、経験や得意分野が異なるチームメンバーが集まって知恵を出し合うことは、課題解決における最も効果的なアプローチ方法です。リーダー1人が孤軍奮闘することでは、おのずとその限界に突き当たってしまうことにもなりかねません。プロジェクトリーダーは、いうなれば「チーム人数分の知恵」からその人数分以上の知恵と価値を生み出すことによって、目に見える成果を導く役目を担っているのです。
ジェネックスパートナーズ取締役会長。ゼネラル・エレクトリック(GE)で、シックスシグマによる全社業務改革運動に、改革リーダーのブラックベルト(専従リーダー)として参加後、経営コンサルタントに転身。
2002年11月、お客様とともに考え、ともに行動するパートナーとしての視点から、お客様の成果実現のために企業変革を支援し、事業価値向上に貢献するプロフェッショナルファーム「ジェネックスパートナーズ」を設立。日本企業再生を目指して、企業変革活動の支援を推進している。著書に『図解コレならわかるシックスシグマ』、『これまでのシックスシグマは忘れなさい』などがあり、中国、韓国、台湾等でも翻訳出版されている。
「誠」世代が“自立する=自ら考え正しく行動できる”ことが、今後の日本経済を支えるといっても過言ではありません。社会に出たビジネスパーソンとして自立するためのきっかけは誰にでも必ずありますから、そのチャンスに果敢にチャレンジしてほしいと思います。
しかしその際、気合と根性だけでは徒手空拳も同然。本連載でご紹介するようなビジネスリーダーとしての心構えと基本動作を身に付けておいたほうが無難でしょう。これらは難しく考えるのではなく、実際に試してみることが大切です。
本連載の主人公・誠は、おっちょこちょいではありますが、好奇心と向上心を持ち合わせたがんばり屋です。誠のように『天は自ら助くるものを助く』の精神でプラス思考で臨んだリーダーこそが、最後にはきっと生き残るのです。
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