「改札を通って電車に乗ろうとしたら事故が発生して足止め、約束の商談に間に合わない」。こんな経験があるビジネスパーソンも少なくないはず。電車の遅延が起こった場合、多くの場合は駅の中にあるLEDの電光掲示板で状況を確認することしかできなかった。
電車に乗る前に遅延情報を知りたい――ユーザーのこんな要望に応えるサービスを提供しているのが東京メトロだ。同社は、遅延情報をリアルタイムに伝えるデジタルサイネージ(電子看板)を、東新宿駅など副都心線(渋谷―和光市間)の9駅で稼働させている。副都心線は6月14日の開業当初、電車の遅延が起こりダイヤの乱れが生じていたが、デジタルサイネージの導入によりこうした状況を乗客に的確に伝えることに成功している。
「歩く人に重要な情報が一目で伝わるようなディスプレイが必要だった」。東京メトロ鉄道本部営業部で営業推進担当を務める佐藤肇課長補佐は、副都心線におけるデジタルサイネージの導入をこう振り返る。
東京メトロでは従来、電光掲示板による情報配信を行っていた。だが、電子掲示板で表示できる情報は1行の文字列のみ。重要な情報を乗客に瞬時に伝えきれていなかった。
そこで2005年にデジタルサイネージの導入を検討し始めた。2006年には銀座線の銀座駅で、65インチのディスプレイ3台を設置し、実証実験を開始した。デジタルサイネージのシステム構成や視認性、設置場所などを検証し、本格導入への手応えをつかんだ。
情報配信の基盤に活用するのは、日立製作所のディスプレイ情報配信システム「MediaSpace」。東京メトロ側で情報をリアルタイムに更新できる低コストのシステムという条件を満たし、JRなどの交通機関にシステムの導入実績があることを見込んで、採用を決めた。
同社ではMediaSpaceを活用した案内板を「運行情報ディスプレイ」と呼んでおり、遅延情報に加え、便利な1日乗車券の紹介などを表示する。現在、65インチと40インチの運行情報ディスプレイが計26台稼働している。
運行情報ディスプレイでは、遅延情報を路線図に照らし合わせて表示する。電車が止まっている区間を赤色、遅延している区間を黄色で表示するなど、文字情報では伝えきれない情報を、視覚的に伝えることができる。
ディスプレイには、運行経路図を画面中央に表示し、左上には遅延の原因を、画面下には振替輸送の情報を表示する。文字は日本語と英語の2カ国に対応しており、「観光客など日本人以外にも情報を伝えられるようにした」(佐藤氏)。
遅延などが発生していない場合は、画面中央から右側にコンテンツを、左側にはニュースや天気予報を表示する。遅延情報以外にも情報を配信することで、視認性を高める工夫を凝らしている。
ディスプレイの設置場所は主に改札付近。「改札を通ってから遅延情報が伝わるようでは遅い」と佐藤氏。運行情報を的確かつユーザーが必要とするタイミングで伝えるために、設置場所もこだわった。
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