200年前の森林破壊から学んだ――ドイツ・黒い森の持続可能な森林管理松田雅央の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年11月25日 15時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

 ドイツはよく“森の国”と評される。森林率31.7%(国土面積に占める森林面積の割合)が特別高いわけではないが、“森と人の近さ”がそう呼ばせるのではないだろうか。多くの森には散策道やハイキング道が整備され、“森歩きと山歩き”はドイツで最もメジャーなスポーツといっていい。現在、自然保護の立場から森の開発は厳しく制限されている。

 本誌9月9日掲載の「観光とエコロジーの両立を目指して」では黒い森のエコツーリズムについてレポートした。今回は持続可能な森の利用という観点から、一般市民向けの自然観察ツアーと、森林管理の実際を掘り下げてみたい。

自然保護区の観察道

 黒い森地方の北部にある保養地バート・ヘレンアルプは、豊かな森の自然を生かしたエコツアーの開発に力を入れている。

 元々ここは温泉地として知られ、保養・療養のため長期滞在する人が多い。ドイツらしいのは、澄んだ森の空気による“空気療養”という考え方があり、散策やハイキングが保養・療養プログラムに取り入れられていること。週末になれば余暇で森を訪れる観光客も多く、地元の観光局では森について学びたい人を対象とした各種エコツアーを用意している。

バート・ヘレンアルプの民家

 最も人気があるのは、町名の由来であるアルプ川源流の自然保護区域に整備された自然観察道のツアーだ。筆者は10月半ばの土曜日、地元の自然観察ガイド、ジークリット・カンプマンさんのツアーに参加した。

 4キロメートルほどの自然観察道には十数カ所に楽しい絵と解説の説明版が立てられ、水生生物、森林、地層などについて、クイズやゲームを交えながら学べるよう工夫がされている。

自然観察道の説明版

 ところどころ、切り株を利用した彫刻もある。木の切り株をそのまま使っているので長持ちはしないが、時間とともに朽ちていくのもまた自然の営みだ。

 自然観察道は細かい砂利で適度に整備され、車椅子でも安心して利用できるのがうれしい。


自然観察ガイド養成

 カンプマンさんはバート・ヘレンアルプ観光局が養成した自然観察ガイドの1人。研修期間は2週間ほどで、水、植物、動物、森林のセミナーを受講したり、実地研修を修了している。彼らは町の委託を受けて定期的にガイドツアーを担当するほか、幼稚園、学校、プライベートなグループのガイドも引き受け、参加者数は年を経るごとに増えているそうだ。

 ガイドの本業は主婦(カンプマンさん)、建築家、定年退職者、ビオ(有機農業)農家など。必要経費は出るが、実質的にはボランティアである。

 沢にかかる橋の手前で、「どんな小石でもいいので、1つ拾ってください」とカンプマンさん。「沢の水は激しく流れながら酸素を取り込み、それが水を浄化します……」。そんな話になぞらえて「皆さんの悩みを手の中の小石に込めて、水に投げ入れてください」

 野外を舞台としたエコツアーは、通常の観光ツアーとは異なり五感を通して自然を楽しむ工夫がいっぱいだ。

アルプ川源流の自然観察ツアー
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