「省エネ対策」をビジネスに――ドイツのエネルギーエージェンシー欧州エコビジネス最前線(1/3 ページ)

» 2008年12月09日 11時15分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)


 エコロジーはこれから私たちが進むべき方向を示す考え方といって間違いないだろう。しかし「環境保全」「持続可能な開発」「人と地球に優しい」といった幅広いキーワードで語られるため、時に漠然とし、その本質をつかむことは難しい。私なりに「エコロジカルな社会」を表現すれば「人間も自然の一部であることを認識し、地球に生きる生物として『こんな風に生きたい』あるいは『こんな風に生きるべきだ』という思いを実現する社会」といったところだろうか。

 この不定期連載「欧州エコビジネス最前線」では、エコロジカルな社会を目指し、かつ、それをビジネスとする欧州の企業・団体・人を紹介する。欧州のエコな商品やサービスの提供、エコ分野の研究開発、あるいはユニークで斬新なエコ活動など、最新エコビジネスの潮流を既存の枠に捉われない多様な切り口で探っていきたい。

ドイツの「エネルギーエージェンシー」

 ひところのエネルギー価格高騰は収まったものの、長期的にみれば需給逼迫(ひっぱく)と価格上昇は避けられないだろう。経費節減はもちろん、環境保全の視点からも省エネルギーは重要な社会的課題であり続ける。

 自治体においても、庁舎、公共施設、学校など省エネを進めなければならない施設は多い。こまめに電気を切り、暖房温度を低めに設定するといった地道な努力はもちろん大切だが、根本的な省エネには設備の改修が唯一の選択肢ということもある。しかし、どの自治体も財政難のこのご時世。自己資金が乏しくても、省エネを実現できる手法は無いものだろうか?

 そんな課題にドイツの「エネルギーエージェンシー」が取り組んで、確実な成果を上げている。

 エネルギーエージェンシーとは自治体や公共施設を主な顧客とし、省エネ促進や再生可能エネルギー※の利用促進などを手がける独立採算の公営企業の総称だ。環境保全(気候保護と二酸化炭素の排出削減)と省エネのため1990年代から全国各地で設立されるようになった。

※再生可能エネルギー……太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱といった自然エネルギーや循環型エネルギーの総称。広義には、ゴミ埋め立て処分場から収集される、あるいは生ゴミ発酵処理場で生産されるメタンガスも含む。
KEAの出資比率

 例えば筆者の住むカールスルーエ市には、1994年に設立された有限会社KEA※がある。出資比率は50%が州、25%が州の電力連盟、16%が手工業協会、8%が州立銀行、1%が環境保全団体。比率を見ても分かる通り、州がイニシアチブをとっている。手工業協会がここに加わっているのは、省エネ設備の改修を実際に請け負うのが彼らであり、その協力が不可欠だからだ。わずかではあるが環境保全団体も参加し、市民の声を取り入れることに配慮されている。

※KEA……Klimaschutz fur Baden-Wurttemberg GmbH(有限会社バーデン・ヴュルテンベルク州気候保護)

 人口1100万人の同州に約30カ所のエネルギーエージェンシーがあるから、30万人に1カ所という計算になる。それぞれ設立過程や形態は異なるもののいずれも公的な活動を行い、KEAはそれらを統括する立場にある。

KEAのハラルド・ビーベル氏
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