ムサい男たちの現場に女子が来た日……マスキングテープはアート化した郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2009年01月29日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 建築工事や塗装作業などで用いるマスキングテープを使ってアートを制作する。かわいいモノ好きの女子には分かれども、フツーの男子にはその楽しさはなかなか伝わらないだろう。アクリルフレームにアーティストの絵画作品を入れて、相棒cherryさんと2人でフレームに“テープ・デコレーション”を施した。

 “マスキングテープ・アーティスト”の先達から見れば「アマいな」と言われるようなできだが、思い思いに貼って楽しいのがマスキングテープ。それを「mt」と名付け、ブームを生み出したのは倉敷のカモ井加工紙。仕掛け役となったキーマン2人に話をうかがった。


マスキングテープ・マニアからの手紙

 そもそもマスキングテープは安全帯を着用し、ヘルメットをかぶるような現場で工業用途バリバリで使われるものだ。それが一変するきっかけは2006年の初夏、3人の“マスキングテープマニア”の女子から届いたメールだ。あて先はカモ井加工紙の工業用品テープ担当者(BtoBの商品だから消費者相談窓口はないのだ)。メールにはこう書かれていた。

 「私たちはマスキングテープが大好きで、マスキングテープのミニ本を作りました。第2弾も考えています。だから工場を見学させてください」

 メールを受け取った広報・企画担当の高塚新(たかつかしん)さんは、どう対応するか途方に暮れた。「マスキングテープが好き?」「ミニ本て何?」「工場見学?」――

 対応を引き受けてくれる人が本社にも東京支店にもいない。困っているとミニ本が届いた。それはマスキングテープをアートに使ったコラージュやラッピング写真がたくさん載った、マスキングテープのガイドブックだった。

 その作品の完成度に販売・企画担当の谷口幸生(たにぐちゆきお)常務も驚いた。カモ井加工紙の女子社員も「これカワイイ!」と大絶賛。「じゃあ対応するか」ということで、高塚さんと谷口さんの2人で、普段はムサい男ばかりの生産現場に女子3人を案内することにした。

カモ井加工紙の谷口幸生さん(左)と高塚新さん(右)

新需要が生まれた日

 2006年8月、倉敷の本社工場にデジカメ持参でやって来たのはギャラリーカフェ「ROBAROBA cafe」を運営するいのまたさん、コラージュ作家のオギハラさん、グラフィックデザイナーの辻本さん。ゴム加工、のり塗布、紙管切断……、そんな生産工程を見て「おもしろい!」「すごい!」の声々。「こんなことに驚いてくれるのか」と案内した2人も驚いた。

 工場見学後、「新しいカラーのテープを作ってほしい」と彼女たちから要望があった。2人が「どんな色をお考えですか?」と聞くと、逆に「何色くらい提案してもいいですか?」との質問が返ってきた。

 何気なく「20色」と答えてしまった後が大変だった。前例のない“消費者用途”のテープを企画し、生産工程に載せるためには、社内を説得したり現場の段取りを変更しなければならない。

 しかしこれが、工業用マスキングテープがアートとなり、新需要が誕生した瞬間であった。それは決して大げさな表現ではない。国内だけのブームにとどまらず、今や国際的なブームにまで広がろうとしている。世界有数の見本市「メゾンエオブジェ」(2009年1月23日から27日までパリで開催)のジェトロブースで、カモ井加工紙はmtを出展した。和の文様のmtは、パリジャンやパリジェンヌの心をトリコにしただろうか。

メゾンエオブジェ出品の和柄のmt
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