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» 2009年01月29日 07時00分 公開

郷好文の“うふふ”マーケティング:ムサい男たちの現場に女子が来た日……マスキングテープはアート化した (2/2)

[郷好文,Business Media 誠]
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新需要を生み出す楽しさ

 そして3人はDICカラーガイドの何番という指定を入れ、20色の色見本を2パターンも作ってきた。下写真の20本セットの一番右側が「薄縹(うすはなだ)」という色。藍染の青が和の雰囲気を醸し出すが、現場では「制作伝票に薄縹なんて読めないし、書けない!」という声も飛び交ったという。

20本セットの一番右側が「薄縹」色

 テープそのものは同じで、色さえ変えればいいので、幸い開発投資は小さくて済む。だが、これまでは工業関連の代理店販売だったため、女性向けの販売チャネルもパッケージングも陳列もゼロからのスタート。前例がないだけにむしろやりやすい面はあったというが、3人と谷口さん、高塚さんの企画会議は何十回にもわたったという。

 ネーミング(元々社内でmtと呼んでいた)、パッケージング、封入する説明書などアイデアの多くは3人の発想。世界堂やトゥールズ(画材店)、Francfranc(雑貨店)、東急ハンズなどの店頭で、消費者が手に取ることをイメージしてパッケージングを創造した。世に商品が出るまでには約1年半かかったが、「そのプロセスはとても楽しいものだった」という。

 「自分たちがやりたいことができました。ありがとう、カモ井さん!」と感謝してくれた3人。彼女たちの制作企画協力は無償、逆に払いたいという声さえもあった。インタビューに同行したcherryさん、「分かるわ」というようにうなづいていた。

 そして2008年3月にいよいよ販売を開始する。するとAllaboutや女性誌に次々と取り上げられ、『マスキングテープの本』の発刊、2008年度グッドデザイン賞受賞に結びついた。それまで多品種少量生産に慣れていなかった現場が変わり、社内の空気も変わった。「mtに関わりたい」という社員も増えた。2008年度の販売額は3億円を軽く超えている。

グッドデザイン賞を受賞(出典:グッドデザイン賞)

“ピープルアウト”の商材育成

 mtの成功のポイントはいくつもあるが、最大のポイントは“使い手に任せきった”ことにある。

 最初はカモ井加工紙でもいわゆる“提案型販売”を考えていた。「コラージュはこうして作りますとWebサイトで提案し、mtの写真コミュニティを作ってはどうか」と考えたが、結局やめた。

 なぜならマスキングテープとは、人をクリエイティブにする“素材”なのである。素材の使い方は人それぞれ。好きなモノに好きな貼り方をして楽しむべきだ。「それならすべてユーザーに任せてしまおう」と考えた。

 プロダクトアウト(メーカー主導)ではもちろんなく、マーケットイン(ニーズ発掘)でもない。マーケティングの計算や押しつけがない。ファンと一緒に開発する、言わば“ピープルアウト(人々から発生するプロダクト)”。作り手は素材を提供するだけの、極めてオープンな商材育成だ。運やタイミングもあったが、消費者主権のネット時代のビジネスモデルが見えてくる事例だろう。次回の連載では、ピープルアウトについてもう少し掘り下げたい。

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