廃線の危機を脱するアイデアとは?――ある第三セクターの再生物語近距離交通特集(2/5 ページ)

» 2009年02月13日 07時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

1年やってみて判断しよう

 第三セクターの枠組みは、船頭多くして……という状態を起こしているようだ。しかし、当時はそれしか鉄道を残す方法がなかったのだろう。

 問題は現状と今後だ。加西市にとって、北条鉄道はどんな存在なのだろうか。精算してバス転換という方法もあったはずだが、中川氏は鉄道を残した。無給の市民取締役を起用し、活性化策としてボランティア駅長制度を発足。北条鉄道の存続と活性化を決定した中川氏は、2006年5月に「北条鉄道活性化計画」を発表した。

 「やめようよ、という選択もある。しかし、まずは自分が1年間やってみて、それから判断しようと腹をくくったのです。北条鉄道は先人が加西市に残した宝物だと思いました。93年の歴史を持つ交通遺産です。これをしっかりと現代風に磨きをかけて活用していく。それが加西市民の象徴になると思いました。

 赤字だから廃止してバスにする。それは簡単にできるんですよ。しかし、バスに変えたところで、結局、地域の人たちに公共交通機関を利用しようという意識がなければ、何をやってもダメです」

 コミュニティーが活性化していく素地が加西市にあるかどうか。中川氏は、北条鉄道の活性化と加西市の活性化とを重ね合わせた。

 「市民が北条鉄道を支えていこうという気持ちになれば、加西市全体に元気が戻ってくると思いました。北条鉄道を成功させれば、加西市に新しい展望が開けるという思いがあった。だから鉄道は残すと決めたのです」

北条鉄道社長でもある中川暢三加西市長

 “市民が”、と中川氏は言う。しかし、数字で見ると北条鉄道の恩恵を受ける市民は多くはない。北条鉄道の定期利用者は410人。これは加西市民のわずか0.8%である。1割どころか、1パーセントに満たない市民のために、年平均約3000万円の赤字を税金で補填(ほてん)する意味があるのか。

 「市政としては、クルマを使えない人の交通手段は確保しなくてはいけない。加西市がそのために使っている予算は北条鉄道だけではないのです。例えば、市街地から北部山間部にかけて運行しているコミュニティーバスがあります。このバスにも年間約2000万円かかっていて、輸送人員は年間で2万2000人です。しかし、北条鉄道は年間で32万人も利用している」

 北条鉄道の費用対効果は、市の交通政策としては効率が悪い方ではないと言えそうだ。そのため、維持することについて市民の理解は得やすいかもしれない。隣の三木鉄道はバス転換したが、そのバスが不便だという報道もあった。

 しかし、鉄道であっても、バスであっても、市民が支えていこうという意識を持たないと廃れてしまう。そして、北条鉄道には市民の足という役割のほかにも、加西市の玄関口という役割がある。全国から加西市を訪れる旅人が、JR加古川線と神戸電鉄を経由して、粟生駅から北条鉄道でやってくる。

 「バスより鉄道の良いところは、雪の日でも雨の日でも定時走行ができることです。2年前に大雪が降った時も、高速道路は通行止めで、市外へのバスはストップしました。でも北条鉄道だけは動いていました。これは市民に喜ばれました。

 しかも鉄道は地球環境に優しくて時代のニーズに合致しているし、地図にも時刻表にも乗ります。全国にアピールできる存在です。単なる赤字ローカル鉄道ではなく、地域活力の象徴であり“ふるさと加西”を全国に発信する広告塔でもあります」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.