こんな会社には注意せよ。IRという“ロードショウ”を楽しむ経営者に山崎元の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年02月19日 07時00分 公開
[山崎元,Business Media 誠]

著者プロフィール:山崎元

経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、DKA、UFJ総研)を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『超簡単 お金の運用術』(朝日新書)など多数。ブログ:「王様の耳はロバの耳!


 筆者は、率直に言って、企業がIR(インベスターズリレーション)活動に熱心になることに対して懐疑的だ。特に、IRのコンサルタントや証券会社が経営者にけしかけるような、投資家と直接接するようなIR活動について疑問に思っている。

 あえて名前は挙げないが、十数年前、英国の運用会社に出張していたときに、最近大規模なリストラや不採算事業からの撤退を発表した電機メーカーの社長さんのIRミーティングを拝見したことがある。社長と財務担当役員とその部下という3人の陣容で、大手とはいえ英国の一運用会社の通称「ジャパン・デスク」(日本株に投資している数人の部隊を社内ではこう読んでいた)のためだけに、会社について説明するミーティングを開いてくれたのだ。筆者はその運用会社の日本法人に入社して、研修と顔つなぎを目的に出張でロンドンに滞在していたところだった。

 そのオーディオに強くて独自の製品も持っている電機メーカーの社長は、プレゼンテーションも慣れていたし、ファンドマネジャーの質問にも誠実に答えた。ミーティングは、フレンドリーで感じのいいものだった。ジャパン・デスクとしては、大いに感謝した。

 しかし、筆者がどうにも納得できなかったのは、この社長さんの時間の使い方だった。

 乱暴な言い方を許してもらうと「おい、こんなことしている暇があるなら、もっと真剣に経営しろよ」と一声掛けたい気分になったのだ(実際には、言わなかったが)。

情報提供は平等に行う必要がある

 大手の運用会社は運用資産額から見て、1%を超える大株主になる可能性があるし、その時点で、電機メーカーの株式を既にそこそこ持っていたかもしれない(その後の業績が悪く投資としては失敗だったろうが)。しかし社長にとって、1年の中の貴重な1日を財務担当役員も含めて潰すほどの用事だろうか。

 海外の大手投資家に対して会社の経営状態や今後の経営計画を説明するためのIR活動を俗に「ロードショウ」と称するが、あれは無駄ではないのか。経営者は、株主への言い訳や投資家への株式の売り込みではなく、事業で利益を上げることに専念すべきだ。プレゼンテーションで株価を上げようとしているのだとすると、何とも卑しい。

 しかしIRコンサルタント会社は、外国人投資家の重要性を説くし、経営者の側も2度目、3度目のロードショウともなると、裸の王様の側でも慣れが出てきて、海外で羽を伸ばす理由としてこれを使うようになったりする(何をするかは、読者のご想像にお任せする)。

 また、IRのコンサルティングを行っている会社の立ち位置にも“問題”を感ずることがある。彼らは、実質的な株主が誰であるかということの調査をサービスとすることがしばしばあるし、大株主向けの情報提供をいかにうまくやるかについてクライアント企業の経営者に知恵を授ける。しかし建前をいうと、上場企業は現在の株主にだけではなく、今後株主になるかもしれない投資家一般に対して平等な情報提供を行わなければならないのではなかろうか。

経営者はIRの「必要十分」を認識せよ

 「公開」あるいは「上場」企業は、今の株主と将来の株主を平等に取り扱わなければならない。もし誤った情報で株価を一時的に上げるなら、今の株主には感謝されるかもしれないが、将来の株主を欺き損をさせることになる。

 経営者は自己の保身のために、現在の大株主に気に入られたいかもしれない。しかし、1人1人の持ち株は少ないかもしれないが、大衆株主は、経営者が大株主の機嫌取りに時間を使うことを快く思わないだろう。

 もちろん会社の情報を早く、かつ正確に株主・投資家に知らせることは必要だし、重要だ。情報の取り扱いに気を遣うのは当然だ。

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